「インクルーシブデザイン」の二つの視点 — UX デザインの土台としてのウェブアクセシビリティ

この記事は、Web Accessibility Advent Calendar 2017 の21日目の記事です。


12月16日に開催された「CSS Nite Shift11 Web デザイン行く年来る年」で、インフォアクシアの植木さんと一緒に「アクセシビリティ」セッションに登壇させていただきました。

写真 : 登壇の様子
撮影 : サン・スタジオ 鍋坂樹伸様

「アクセシビリティ 改め インクルーシブデザイン?」というセッションタイトルで、欧米のウェブアクセシビリティコミュニティを中心に「インクルーシブデザイン (inclusive design)」というキーワードが広まりつつあること、そしてその意味するところは :

…であることをご紹介したうえで、先に植木さんと共同で日本語訳した The Paciello Group の「Inclusive Design Principles (インクルーシブデザインの原則)」について、実例や具体的なノウハウを交えつつ、また、ユーザビリティや情報アーキテクチャ (IA) との関連性にも触れながら、お話をさせていただきました。

当日の配布資料。英 Barclays 社がグラフィック化した「Inclusive Design Principles」を日本語訳してお配りしました。
「Inclusive Design Principles」(Barckays 制作) の日本語訳版
上掲のグラフィックの元ファイル (英語版 PDF) は、Barclays 社サイトの「Inclusive Design」ページよりダウンロードできます。

各種セミナーや勉強会などで、ウェブアクセシビリティが UX (ユーザー体験) と絡めて語られることは、今までそんなに多くなかったように思いますので、その意味では新しい試みだったのかな、と思います。そして改めて振り返ってみると、この「インクルーシブデザイン」という考えかたには、実は二つの方向性といいますか、二つの視点から見た捉えかたがあると考えています。

アクセシビリティな人からの視点 : その先の UX も意識しよう

昨今、欧米のウェブアクセシビリティコミュニティで言われるようになった「インクルーシブデザイン」の発端となっているのは、この視点かと思います。つまり、ウェブアクセシビリティの実務や普及啓蒙においては、そのスコープをガイドライン準拠だけに限定するのではなく、ユーザビリティや、その結果としてユーザーにもたらされる UX をも含めて、考えることが大事というものです。

WCAG の達成基準を満たすことはとても重要で、アクセシビリティ担保においては必要不可欠ではありますが、仮に WCAG の達成基準をすべて満たしていても、そのユーザーインターフェースが使いにくかったり、わかりにくかったとしたら、残念ながら意味がありません。たとえば、その代替テキストの内容は / その動画字幕 (キャプション) の内容やタイミングは / その WAI-ARIA の挙動は / その情報配置 (提示順) は / その配色は、情報がユーザーに適切に「伝わる」ことに寄与しているか、ユーザー行動を阻害せずに課題解決や良質な体験をきちんと後押しできているか、といった次元まで意識したいものです。

UX な人からの視点 : 前提認識としてユーザーを「排除しない」ようにしよう

その一方で、この「インクルーシブデザイン」は、今までアクセシビリティに関心がなかった層 (UX には関心のある人たち) にとって、アクセシビリティを意識してもらえるきっかけになりそうな期待を感じています。

UX に関心がある人は皆さん、特定のユーザー像や特定の利用状況を想定しつつ、そのユーザーがゴール (目的) を達成できるようなデザインを心がけているかと思いますが、実世界においては、そのユーザーがたまたまある条件 (様々な利用状況、身体特性、障害、など) を抱えることは、一時的なことも含めて「よくあること」です。ここで言う「インクルーシブデザイン」の考えかたは、従来からある UX デザインを推し進めるうえでの前提認識として、こうした多種多様な条件を持つユーザーを「不合理に阻害したり排除したりしない」というマインドセットになり得ると考えています。そして幸いなことにウェブにおいては、設計 / 制作時に標準的な仕様 (HTML や WAI-ARIA など) やアクセシビリティのガイドライン (WCAG) に則ることで、一定レベルの包含性 (inclusivity) を実現することが元来十分に可能なのです。

ウェブアクセシビリティは UX の土台をなす基本品質

今回お話した「インクルーシブデザイン」もそうですが、世界的なトレンドとしてウェブアクセシビリティが UX の文脈で語られることは、今後ますます増えてくることでしょう。日本でも UX への取り組みが盛んになっていますが、その UX の土台をなす基本品質として「アクセシビリティに配慮しないことはあり得ない」という価値観を定着させてゆきたいと改めて思います。

ここ数年、民間企業でも JIS X8341‐3 (WCAG) への準拠を宣言している会社さんが増えていますが、これはビジネス、とりわけ顧客満足という観点においてウェブアクセシビリティの価値が評価されていることの現われだと言えます。アクセシビリティな人、UX な人、それぞれ立場や知見の違いはありますが、互いの歩み寄りを通じて、ウェブ利用においてユーザーが不合理に排除されることのないように、利用したい情報や機能があるのにそこへのアクセスが理不尽に阻害されることのないように、してゆきたいものです。私自身も微力ながら、このあたりの実践やはたらきかけを、いろいろな機会を通じて継続してゆきたいと考えています。