モバイルファースト/コンテンツファーストという考えかた

スマートフォンの普及によって、モバイル環境で Web を利用することが当たり前になってきました。goo リサーチによるスマートフォン意識調査 (2011年6月、10代から60代以上のインターネットユーザー1,148名を対象に実施) によると、スマートフォンを持ちたい理由として「パソコン用サイトにアクセスできるから」を挙げる人がダントツで多かったそうで (参照 : インターネットコムの記事)、スマートフォンは Web 端末としてユーザーに高く期待されていると言えそうです。

たしかにスマートフォンでは PC 用サイトを閲覧することができます。ただ、画面が小さいので、ピンチ&ズームを繰り返さなければならず、かなり面倒だったりします (途中でユーザーが投げ出してしまうことも十分あり得るでしょう)。実際、PC 用サイト (フルサイト) をスマートフォンで利用した場合、モバイルサイトを利用するよりもタスク達成率が下がるという調査もあります (参照 : Jacob Nielsen の Alertbox の記事「Mobile Usability Update」)。

モバイル用の Web サイトには、モバイル機器での閲覧/操作がしやすいデザインが必要だというのは、異論のないところだと思います。

モバイル Web サイトは別に作らない

そこで問題になるのが、モバイル用のサイトを PC 用サイトと別に用意するかどうか、です。既存サイトが PC での表示を前提に「がちがちに」作られている場合は難しいかもしれませんが、たとえば下記のような不便を避けるためにも、サイトは別々にしないほうがよいと考えます。

PC 用とモバイル用との間を行き来できるリンクを設けたり、ユーザーエージェントを自動判別してリダイレクトさせたり、といった解決方法もありますが、あまりスマートとは言えません。Web サイトはひとつにまとめて、アクセスするのに使われるデバイスに応じて、見せかたを変えるのがよいでしょう。

最近の流行は「レスポンシブ Web デザイン (Responsive Web Design)」という手法です。Ethan Marcotte 氏「A List Apart」に寄稿して有名になりましたが、CSS3 の Media Queries を用いて、閲覧端末のディスプレイの大きさ (画面解像度) に合わせてデザインをフレキシブルに変更するテクニックです。具体的な事例は、その名もズバリ「Media Queries」というサイトでも日々紹介されているほか、日本でも、この手法を用いたサイトが増えています。

ただ、レスポンシブ Web デザインも、表面的に Media Queries を用いるだけではユーザビリティの面で不十分だったりします。ブランディング画像やナビゲーションメニューが「above the fold (スクロールせずに閲覧できる領域)」を占拠してしまい、肝心な情報が遥か下のほうに追いやられる...といった具合に、使いにくいサイトが後を絶ちません。

モバイルを第一に考える (モバイルファースト)

レスポンシブ Web デザインを採り入れるうえで併せて意識したい考えかたとして、「モバイルファースト (Mobile First)」がここ数年、注目を集めています。Luke Wroblewski 氏が提唱した概念ですが、これまで普通であった「メインは PC 用サイトであって、モバイル用サイトはサブな存在である」という思考を改めて、「まずはモバイル (スマートフォン) での利用を第一に考えて Web サイトを設計/デザインする」というものです。

モバイルファーストを実践しようとすると、デバイスの持つ表示上の制約から、ユーザーインターフェース (UI) やコンテンツを極限まで (本当に必要不可欠なレベルにまで) 削ぎ落とさざるを得なくなることでしょう。それこそが、サイトに必要なもの (あとは無くても構わないもの) と考えます。さらに大事なのは、PC で閲覧する場合もモバイル機器で閲覧する場合も、利用できる情報や機能は同等であるべきという考えかたです (モバイルといっても、必ずしも利用コンテキストが外出時や移動時に限定されるわけではなく、むしろ家の中、リビングやベッドルームなどで PC の代わりに使われることも多いからです)。PC での閲覧に対しては、画面の大きさ、通信環境、マシンスペック、などを勘案して「あったら便利 (nice-to-have)」を適切に付加する...というのが、モバイルファーストのあるべき姿とされています。

モバイルファーストはコンテンツファーストでもある

利用できる情報は PC でもモバイル機器でも同等であるべき、という意味で、モバイルファーストは「コンテンツファースト (Content First)」と表現されることもあります。その背景には、ユーザーの Web 閲覧方法が多岐にわたっていて、もはや Web サイトの制作者/運営者の側がコントロールできない、という現状があります。

これは単に、PC かモバイル機器か?というだけの話ではありません。「Web サイト」という形式でなくても Web コンテンツは閲覧できるようになっていて (以前からある RSS リーダーはもちろんのこと、Safari の「リーダー」機能、さらには「Insapaper」や「Readability」といったサービスもあります)、どの閲覧方法を選ぶかという主導権は完全にユーザーの側にあるのです。

当然のことながら、Web コンテンツの閲覧方法は今後もどんどん変化 (進化) し、より多様化してゆくことでしょう。未来を正確に予測するのは不可能です。モバイルファーストを提唱した Luke Wroblewski 氏を含む有志が、「Future Friendly」という概念を掲げています。これは「Future Proof」という言葉 (「なんとか proof」という表現には、たとえば「防水」を「water-proof」、「耐震」を「vibration-proof」と言うように、「完全に防ぐ」というニュアンスがあります) に対抗して、未来に対してあくまで「Friendly」な姿勢で行こう、つまり、未来に登場してくるであろう様々な閲覧環境を逐一予測して「がっちりと」対応するのではなく、根幹となるコンテンツを重視し (適切な情報セマンティクスを維持し)、変化に柔軟に対応できるように準備しておこう、という考えかたです。モバイルファースト/コンテンツファーストをサステナブルに実践するうえで、共有しておきたい、面白い価値観だと思います。