スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2019年8月~9月実施の WebAIM 調査より

ウェブアクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体 WebAIM (Web Accessibility in Mind) による、恒例のスクリーンリーダー利用者調査 (第8回) の結果が発表されました。英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Screen Reader User Survey #8 Results」で詳細をご覧いただくことができます。

この記事では WebAIM 発表の調査結果の中から、私自身が興味深く感じた事項を中心に、スクリーンリーダー利用に関するトレンドについてまとめたいと思います。

調査の概略

本調査は2019年8月~9月にウェブアンケート形式で行なわれました。有効回答数は1,224人で、回答者の地域属性は、北米が58.0%、欧州が27.0%、アジアが5.8%、豪州/オセアニアが2.8%、アフリカ/中東が2.9%、南米が3.0%、中米/カリブ海地域が0.4%、となっています。

スクリーンリーダーの習熟度については、上級者が62.2%、中級者が32.4%、初心者が5.4%、という内訳です。また、インターネットの習熟度については、上級者が76.0%、中級者が22.8%、初心者が1.2%、という内訳です。いずれも前回調査に比べて上級者の割合が (少しずつ、順当に) 高くなっています。

スクリーンリーダー利用におけるモダリティの内訳は、「もっぱらスクリーンリーダーの音声読み上げに依存している」人が71.3%、「音声読み上げが主で、併せて視覚的に表示されたコンテンツも利用している」人が11.7%、「視覚的に表示されたコンテンツが主で、併せて音声読み上げも利用している」人が9.6%、となっています。ちなみに点字については、「点字出力に主に依存している」人が3.9%となっていますが、「音声/視覚情報が主で、点字出力を併用している」人の割合は (回答選択肢がなかったため) 残念ながらわかりません。WebAIM によると (回答者コメントでうかがい知る限り)「点字出力を併用している」人は少なくないようなので、次回以降、設問の回答選択肢に含まれることを期待したいと思います。

PC 用スクリーンリーダーは NVDA が JAWS を抜きトップに

PC 用スクリーンリーダーは、JAWS および NVDA がかねてから「二強」と言える状態でしたが、今回、初めて NVDA が JAWS を抜きトップになりました。「メインで利用するスクリーンリーダー」(Primary Screen Reader) として NVDA は40.6%、JAWS は40.1%となっています。また、「普段よく使うスクリーンリーダー」(Screen Readers Commonly Used) として NVDA は72.4%、JAWS は61.7%となっています。いずれも NVDA は上昇傾向が、JAWS は下降傾向が続いており、障害当事者の間で NVDA のプレゼンスがかなり高まっていることを感じます。

PC 用ブラウザは Chrome が伸長

スクリーンリーダーと併用する PC 用ブラウザは、前回調査は Firefox がトップでしたが、今回調査では Chrome が大きく伸長してトップになっています (Chrome が44.4%、Firefox が27.4%)。

スクリーンリーダーとブラウザの組み合わせで見ると JAWS + Chrome が首位 (21.4%)、次いで、NVDA + Firefox (19.6%)、NVDA + Chrome (18.0%) ... となっています。NVDA と併用するブラウザは Firefox がベスト、という印象を持っていましたが、障害当事者の間では Chrome の併用も実用上遜色なくなってきているようです。

モバイル vs PC

「PC とモバイルデバイスのどちらをスクリーンリーダーと一緒によく使うか? / Do you use a screen reader most often on a desktop/laptop computer or a mobile/tablet device?」という設問に対しては、PC (Desktop/Laptop) と答えた人が41.3%、「どちらも同じ頻度」と答えた人が49.2%、モバイル (Mobile/Tablet device) と答えた人が9.5%、となっています。6割弱の人がスマートフォン/タブレットを普段使いしていることになりますが、前回調査では7割弱だったので、モバイルの伸長は落ち着いてきているのかもしれません。

なお、「普段よく使うモバイルスクリーンリーダー」としては、VoiceOverがもっとも多く (71.2%)、次いで TalkBack (33.0%) となっています。

WAI-ARIA ランドマークの利用はいまひとつ?

WAI-ARIA ランドマークの利用頻度に関する設問では、「あればいつでも使う (Whenever they’re available)」という人が13.2%、「しばしば使う (Often)」という人が13.4%、となっており、これらを合わせた「頻繁にランドマークを利用する人」は26.6%にとどまる結果となっています。この割合は下降傾向にあり、WebAIM としてもその理由を計りかねているようですが、ウェブコンテンツ側でランドマークがあまり実装されていない、実装されていても不適切な実装になっていることが多い、というのはあるかもしれません。(あるいは単純に、ランドマークを利用するためのキーコマンドを学習するのが面倒だったり、その必要性をユーザーが特に感じていない、というのもあるかもしれません。)

ちなみに、「長めのウェブページで情報を探す際、もっともよく使う手段は?(When trying to find information on a lengthy web page, which of the following are you most likely to do first?)」という設問では、見出しの拾い読みをする人が圧倒的に多く (68.8%)、次いで、サイト内検索 (15.7%)、リンクの拾い読み (5.6%)、ランドマークの拾い読み (2.9%) ... となっています。


当サイトでは 2009年の第1回目からこの調査に注目していますが、グローバルにスクリーンリーダー利用者事情を俯瞰できるよい機会になっています。今後も引き続き、ウォッチしてゆきたいと思います。