理解の秘密 (Instruction Anxiety)
「理解の秘密 — マジカル・インストラクション」を読みました。情報アーキテクチャ (Information Architecture : IA) の先駆者であるリチャード・ソウル・ワーマン (Richard Saul Wurman) 氏による著作で、松岡正剛氏が監訳しています。
原題の「Instruction Anxiety」が示すように、本書は「インストラクション」に焦点を当てた本です。インストラクションとは、人と人とのコミュニケーションにおける重要な要素で、人に何かを期待する際に (あることをしてもらったり、あることを考えたり感じたりしてもらう、など)、それを円滑に具現化するための情報伝達、を意味します。(本書内には、インストラクションの端的な定義文は明記されていないのですが、本書全体を通じて、私はそう理解しました。)
1993年発行という古い本ですが、インストラクションをコミュニケーションの根幹に据えて、その重要性を説くという視点がとても興味深く、ウェブの情報設計や UI デザインにも応用できそうです。インストラクションの具体例として1章を割く形でマニュアル (取扱説明書) への言及もあり、個人的にキャリアの出自がマニュアル制作だった私自身にとっては、その意味でも面白く、初心に帰ることができた一冊です。
この記事では、本書を読んで得た学びや感じたことを 、メモとして (引用というよりは私自身の解釈が混じった形ですが) 箇条書きにまとめます。
- 設計する人は、インストラクションを作る人である (たとえば建築家は、建物を建てるのではなく、建物を建てるためのインストラクションを開発している)。ペルソナ、シナリオ、ワイヤーフレームを作り共有するといったウェブ設計の一連の行為も、プロジェクト/チームをひとつの方向に向けるインストラクションの一部と言えそう。
- インストラクションには5つの要素がある。送り手、受け手、内容、チャンネル (メッセージの形式)、コンテキスト (インストラクションが生じる場面や背景といった文脈)。
- インタラクションが成立するためには、送り手だけでなく受け手もアクティブになってもらう必要がある。
- 不安や恐れといった負の感情は、受け手のインストラクションに対する建設的な反応を妨げる。
- 小さい子どもは、何か意味の理解できないことをやりなさいと大人から言われると、わからないところを聞くよりも、むしろ完璧に理解できたふりをする。何か理解できないことがると、自分が悪いと思ってしまう。大人になっても、このような発達段階の思考の癖を引きずってしまう。
- 欠陥インストラクションの原因 :
- 受け手に合わせて翻訳していない。
- 受け手の理解力やニーズを考えていない。
- メッセージが抽象的で、双方の解釈が食い違っている。
- 情報過多で、趣旨が不明瞭。
- ほのめかしやベールに覆われた言葉によって、趣旨が隠れてしまっている。
- 重要な部分が欠落している。
- 従うことを不必要なまでに強要する。
- 関連情報 (コンテキスト) の提供が欠落している。
- 伝達手段の選択が不適切なため、受け手を誤解させる。
- 適切な予告なしに、それまでの慣例から外れる。
- 偽りの主張や約束。
- 人間の行動に対する配慮がない。
- 親への反抗に似た反応を呼び起こしてしまう。
- 自己矛盾している。
- 時間が経過してわかりにくくなっている。
- 実行させようと、見当はずれの推奨をする。
- インストラクションの改善点 :
- 相手が理解できるように翻訳する。
- コンテキストを利用し、受け手の理解をサポートする。
- メッセージの形式ではなく、その目的や意図を中心に考える。
- 抽象的な概念を具体的な記述、描写に置き換える。
- メッセージが損なわれずに、適切な相手にストレートに伝わるようにする。
- 誤解をただすための、質問を可能にする。
- インストラクションの6つの構成要素 :
- 使命 (mission) : インストラクションの目的や意図。
- 最終目的 (destination) : インストラクションの実行を通じて得られる結果。
- 手順 (procedure) : インストラクションを進めるためのステップ。
- 時間 (time) : インストラクションを実行するためにかかる時間。
- 予測 (anticipation) : インストラクションの実行過程で生じる物事。うまくいっているかどうかの手がかり。
- 失敗 (failure) : インストラクションの実行が不適切な場合に生じる物事。やり直すための手がかり。
- 我々の生み出すものが、現実生活における人間のやり取りや行動から発想されることはあまりにも少ない。本来は、人間的要素がインストラクションの構想を決めるべきなのに。(UCD 的な考えかたが大事。)
- 「機械についてゆけない」問題。多すぎる操作オプション、分厚いマニュアル、「うまくいった」という成功体験が簡単に得られないこと、などが原因として挙げられる。
- 説明書に依存するのではなく、プロダクト自体のデザインに語らせることも重要。
- インストラクションの表現手段。メジャーなのは言葉と絵だが、それぞれ一長一短あるので、適宜両方を用いるとよい。
- インストラクションの方法には多くの種類がある。唯一ベストなものはない。受け手の異なるニーズや異なるレベルに合わせて、彼らが理解できるように説明することが大事。