デザイニング Web アクセシビリティ

デザイニング Web アクセシビリティ — アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ」の見本誌をいただきました。すでに書店に並んでいますが、ようやく読み終えましたので、感想を交えつつご紹介します。

デザイニング Web アクセシビリティ — アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ

この本は、先の記事でご紹介した「コーディング Web アクセシビリティ」の姉妹書という位置づけです。「コーディング…」のほうは、制作テクニック (WAI-ARIA を中心とした HTML マークアップや、 CSS、JavaScript の実装法) に主眼を置いているのに対し、今回の「デザイニング…」のほうは、ウェブサイト構築の様々な局面 (ナビゲーション設計、インタラクション設計、フォーム設計、コンテンツ設計、ビジュアルデザイン、実装、など) でおさえておくべきアクセシビリティの基本がまとめられています。

本書では、各章ごとに、「問題と解決アプローチ」というパターンでたくさんのケーススタディが紹介されていますが、単なるガイドライン (WCAG 2.0 / JIS X8341-3:2010) への準拠にとどまらず、アクセシビリティの担保によって得られるユーザビリティやユーザーエクスペリエンス (UX) にまで言及しているところが特長と言えます。私自身、ウェブデザインにおいてアクセシビリティは標準品質であり (アクセシブルでない設計のウェブサイトは「あり得ない」です)、アクセシビリティとユーザビリティ (さらには UX) は不可分であると常日頃から考えているので、このアプローチはとても共感できます。願わくば、いわゆる「UX デザイン」に興味を持つ多くの人たちにとって、地に足をつけてアクセシビリティについて学ぶよい取っ掛かりになったらいいな、と思います。

また、全体的に内容が平易で (テクニカルな実装論になり過ぎることなく、ユーザー視点で実現されるべき要件を明確にする、という姿勢が貫かれているように感じます)、誌面も親しみやすく (挿絵の、ユーザーが困惑したり驚いたり怒ったり…といった顔が、なんとも味があって個人的にはツボでした)、さらには上流工程 (戦略策定や要件定義) で留意したいポイントについてもしっかりおさえられているので、デザイナーをはじめとする制作実務者のみならず、プロジェクトを動かす立場の人 (プロジェクトマネジャー、ディレクター) やサイトオーナー (サイト運営者) にもぜひ熟読してほしい一冊です。

ウェブアクセシビリティに造詣が深い人にとっても本書では、セキュリティ観点からの解説が織り交ぜられていたり (たとえば、CAPTCHA やセッションタイムアウトの妥当性など)、今となっては推奨できない実装方法の歴史的経緯や時代遅れな理由が解説されていたり (たとえば、文字の画像化や、スマートフォンにおけるズーム禁止措置など) するので、新たな学びが得られると同時に、改めてこれらを知ることで、組織やチームの中でアクセシビリティ改善を推進する際の説得力向上に活かせることでしょう。

個人的な感想としては、「ウェブアクセシビリティの入門書として、まず何を読めばいい?」という質問に答えられる本がようやく出た、という印象です。ウェブアクセシビリティの大全として有名な「Web アクセシビリティ — 標準準拠でアクセシブルなサイトを構築/管理するための考え方と実践 (Web Designing BOOKS)」は専門的すぎて読むのが大変だし、駆け出しの頃お世話になった「ウェブ・ユーザビリティ&アクセシビリティ・ガイドライン — 誰もが使いやすく、アクセスしやすいウェブサイトをデザインするための80の指針」は内容的に古くなってしまったし…と、なかなか「これ!」というものがなかったのですが、本書は「今、使える」実践的な指南書として、ウェブにかかわるあらゆる立ち位置にいる人におすすめできると思います。

(蛇足ながら…)
「関連情報・資料集」のセクション (P.290) で、光栄なことに当サイトを採り上げていただきました。「具体的な UI パターンを横断的な視点で評価する記事が多く、サイト設計時のハンドブックとして役立ちます。」というありがたいご紹介文まで添えていただいて...。これを励みに、これからもそのように評価いただけるよう微力ながら努めたい所存です。