コーディング Web アクセシビリティ

コーディング Web アクセシビリティ - WAI-ARIA で実現するマルチデバイス環境の Web アプリケーション」の見本誌をいただきました。すでに書店に並んでいますが、ようやく読み終えましたので、感想を交えつつご紹介します。

コーディング Web アクセシビリティ - WAI-ARIA で実現するマルチデバイス環境の Web アプリケーション

この本は、ドイツの Smashing Magazine が出版している「Apps For All : Coding Accessible Web Applications」の日本語訳です。とても軽妙な語り口の、「リファレンス」というよりは「読み物」といった雰囲気の本で、読者に対する姿勢として「厳密さ」よりも「わかりやすさ」を大切にしている (そして徹頭徹尾その姿勢を貫いている) 本だな、と感じました。

比喩が面白かったり (たとえば、WAI-ARIA の「ロール」「プロパティ」「ステート」をロールプレイングゲームのキャラクター設定になぞらえたり、ライブリージョンの重要性を「オフィスワーク中に火事が起きたら」というたとえ話で説いたり...)、また支援技術 (主に JAWS や NVDA といったスクリーンリーダー) を介したユーザーの利用シーンやコンテキストが具体的に目に浮かぶような描写が随所に散りばめられていたりして、楽しみながら読み進めることができます。

また、リファレンス的な本ではないながらも、基本的なセマンティクスの重要性や、昨今多くのウェブサイトで見られるインタラクティブな UI (折り畳み/展開、タブ、アラート、モーダルウィンドウ、など) の具体的なコーディングについてもしっかりおさえられており、さらに実際に挙動が確認できるように、ウェブ上にデモも公開されています。(実はそのデモサイト、以前に何かのきっかけで見つけて、わかりやすくて印象的だったのでツイートしたことのあるサイトでした。この本の翻訳元の著者のサイトだったのですね。つながりました...。)

一点付け加えるなら、この本には巻末索引があるとよかったかもしれません。「リファレンス」ではなく「読み物」な雰囲気ではあるものの、実用的なコーディング例もそれなりに多く掲載されているので、UI の種類や WAI-ARIA の属性名といったキーワードを手掛かりに検索がしやすいと、後々も参考にしやすいかな、と思いました。

もちろん目次がその機能を果たしてもよいのですが、この本の場合、目次のラベルはあくまでもキャッチ―であること (初見の読者を「面白そうだな。本文を読んでみよう。」という気にさせること) を重視しているようで、索引として使うのはやや難しいかもしれません。

この本が出る以前は、日本語で読める WAI-ARIA に関する情報は、W3C のドキュメントを有志の方々が日本語訳したもの (「WAI-ARIA 1.0 (W3C Recommandation)」「Using WAI-ARIA in HTML」「ARIA Techniques for WCAG 2.0」) や、断片的なブログ記事くらいしかなく、「WAI-ARIA って何?どんなことができるの?」を理解するのは容易ではありませんでした。この本が多くのウェブ制作関係者の目に触れることで、WAI-ARIA の概念や可能性を適切に理解し、実装上の勘所をおさえ、様々なインタラクションに応用できる人が増えたら (ひいてはアクセシブルなウェブアプリケーションが増えたら) いいな…と思います。

個人的には、昔読んだ Steve Krug 氏の「Don't Make Me Think」(日本語訳は「ウェブユーザビリティの法則)」や「Rocket Surgery Made Easy」に近いノリを感じて、とても面白おかしく読むことができました。マークアップの専門家はもちろん、ウェブデザイナーやディレクター、ウェブアクセシビリティに関心のあるサイトオーナー (サイト運営者) など、多くの人に楽しんでもらえるのでは、と思います。