ページの先頭に戻るリンク

ページの先頭に戻るリンク、というのを時々見かけます。ページ内の決まった位置にテキストリンクがあるパターンもあれば、クリック/タップ可能なボタンが浮遊する (スクロールに追従して常に画面上に表示される) パターンもあります。

この、ページの先頭に戻るリンクは、なぜあるのでしょうか?「ページの先頭には、グローバルナビゲーションや機能ナビゲーション (お問い合わせ、サイトマップ、サイト内検索機能、など)、サイトロゴ (ホームへのリンク)、といった重要な機能が並んでいて、そこに素早くアクセスできるようにしたほうが親切だから。」「ページの先頭に戻る際、スクロールバーまでマウスポインターを動かしてドラッグするのが、面倒だから。」...というのが、主な理由でしょう。

一見とても便利な機能なだけに外すのは難しい

この、ページの先頭に戻るリンクは、一見とても便利な機能です。実際、それがあることで違和感なく使っているユーザーも多いことでしょう。「このようなリンク機能は、あったほうがよいと思いますか?」と質問すれば、多くのユーザーは「そりゃ、あったほうがよいと思う。」と答えるのではないでしょうか。それだけに、一度この機能を付けてしまうと、外すのはなかなか難しいだろうな、と思います。

ただしこのリンク機能、問題が無いわけではありません。

ページの先頭に戻るリンク機能の問題

ページの先頭に戻るリンク機能は、以下のような問題を孕んでいると思います。

本来の目的ではない方向にユーザーを誘導している。
ページの先頭にユーザーを導くことが、そのページの主目的ではない (本来は別の目的があるはずである) にもかかわらず、ページの先頭に戻るリンクが、目につきやすい位置にあります (コンテンツをひとしきり読み終えたところで、視線の流れが行き着きやすい画面右下に見えることが多いと思います)。特にボタンが浮遊するタイプの場合、それなりに目立つようにボタンがデザインされていることが多く、Call To Action (行動喚起) に見えてしまうことがあります。
メインのコンテンツへの集中が妨げられる。
ボタンが浮遊するタイプの場合、スクロールに追従する形で、ページの先頭に戻るリンク (ボタン) が動くので、ユーザーの意識がついそっちに向いてしまいます。また、浮遊するボタンが、肝心なコンテンツ本文の一部を覆い隠してしまうことがあり、ユーザーに余計なスクロール操作を強いることになります。

「そのページを閲覧しているユーザーにとってもらいたいプライマリーなアクションが、ページの先頭に戻ることなのか?」「ページの先頭に戻るリンク機能は、メインのコンテンツの一部を隠してでも、本当に必要だろうか?」は、今一度、検討してみるのがよいと思います。 個人的には、ページの先頭に戻るリンク機能、特にボタンが浮遊する (スクロールに追従して常に画面上に表示される) タイプは、実装せずに済むのであれば、できるだけ外したいな...と考えています。閲覧画面上の限られたスペースを、できるだけメインのコンテンツ (およびそこからのユーザーゴールへの誘導) に割きたいからです。

便利な機能を外せば不便になるのでは?

その一方で、「便利な機能を外せば、ユーザーにとって不便になるのでは?」という考えもあるかと思います。私見ですが、この手の機能はコンテンツ側 (Web ページ) ではなくユーザーエージェント側 (ブラウザやデバイス) で持つべきでは、という思いがあります。実際、パソコンでは以下のキー操作が標準で用意されていて、ページの最上部/最下部に瞬時で飛ぶことができます。

今後はさらにタッチインターフェースが普及し、スクロール操作が格段に楽になるでしょうし (マウスポインターをスクロールバーまでわざわさ動かさなくて済みます)、とりわけ iOS (iPhone や iPad) の場合、画面最上部のステータスバー (無線の状況や時刻、バッテリー残量が表示されているエリア) をタップすると、瞬時にページの先頭に飛べるようになっています。

実際問題として、これらのコマンドを知らないユーザーは多いと思いますが、ブラウザ (Web 閲覧) だけでなく多くのアプリで汎用的に使えるものですし、数回経験すれば容易に記憶 (学習) できる程度のものです。「ユーザーに学習してもらえないと使えない」というのはリスクになり得ますが、「本来の目的ではない方向にユーザーを誘導する」「メインのコンテンツへの集中を妨げる」というリスクよりは小さいのではないでしょうか。

UI パーツよりも情報そのものの設計を

もちろん、デザインの工夫によって、ページの先頭に戻るリンクを控えめに演出すること (メインのコンテンツへの集中を妨げたり、コンテンツ本文を読むのを邪魔したりしないこと) は可能かもしれません。この手の機能はギミックとしてとても面白いので、デザイナーとしては色々と工夫しがいのあるところだとは思います。

ただ本質的には、メインのコンテンツをスムーズに利用してもらうこと、そのうえで、次にとって欲しい (あるいはユーザーがとりたいと望む) アクションにスムーズに誘導すること、が大切かなと思います。その意味では、ユーザーインターフェース (UI) のパーツよりも情報そのものの設計に力を入れることを重視したいな、と思っています。