Android のアクセシビリティ機能

先の記事「iOS 標準のアクセシビリティ機能 (支援技術)」で、「モバイル機器の中でも、アップルの iOS デバイス (iPhone や iPad) は、アクセシビリティの面で他よりも一歩先んじている」と書きましたが、ライバル OS である Android はどうなのでしょうか。

スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2012年5月実施の WebAIM 調査より」という記事中の「モバイル機器で音声読み上げをする人が増加している」で、モバイル環境で使用されているスクリーンリーダーの順位を書きましたが、iOS の VoiceOver が48.7%だったのに対し、Android は (TalkBack の5.4%と Mobile Accessibility の3.8%を足して) 9.2%にとどまっています。

アクセシビリティの面で今はまだ後塵を拝している印象の Android ですが、Google 公式サイトのアクセシビリティ情報サイトの中にある「Using Google products: How to use accessibility features」を見ると、「Accessibility overview in Android Ice Cream Sandwich (4.0) Release」へのリンクが設けられており、2011年にリリースされた「Ice Cream Sandwich (Android の OS バージョン4.0のこと)」以降、Android でもアクセシビリティ機能が充実してきていることがアピールされています。

また、Android 4.0 (Ice Cream Sandwich) のアクセシビリティ機能について紹介するビデオも、Google Nexus のチームによって制作されており、「Android 4.0 Accessibility」という一連のシリーズとして YouTube で公開されています。

この記事では、まずは基礎知識の整理として、Android のアクセシビリティ機能にはどういうものがあるのか、簡単にまとめてみたいと思います。

Android 標準の支援技術

Android の特長は「オープンであること」と言えます。サードパーティがアプリを比較的自由に開発することができ、OS の基本機能に近い部分もアプリ追加によって大きくカスタマイズできるようになっています。アクセシビリティ機能についても同様で、多種多様なアクセシビリティ関連アプリがオプションとして公開されていて、自由に選択することができます。極端な話、基本的なユーザーインターフェース (UI) をがらりと変えてしまうことも可能です (以下の動画は「BIG Launcher」というアプリの例です)。

こうして見ると、アップルの iOS が、デフォルトで様々なアクセシビリティ機能を用意しているのは対照的と言えそうです。そんな中でも、Android では以下の支援技術が標準として用意されています。

TalkBack
いわゆるスクリーンリーダー (音声読み上げ機能) です。
KickBack
様々なアクション (操作およびそのフィードバック) や各種通知を、振動で知らせてくれるバイブレーション機能です。
SoundBack
様々なアクション (操作およびそのフィードバック) や各種通知に対して、効果音を付加する機能です。

ちなみにこれらの支援技術は、端末メーカーの判断で出荷時にデフォルト装備されない場合があり、厳密には OS の標準機能と言えないかもしれませんが、その場合でも、Google Play (旧 Android Market) で無料で入手できるようになっています。

音声読み上げ機能 (TalkBack) について

Android の標準の支援技術のうち、ここでは Talkback について、少しだけ深掘りしてみようと思います。

TalkBack はスクリーンリーダー (音声読み上げ機能) で、様々なアクション (操作およびそのフィードバック) や各種通知を、音声で案内してくれます。Android 4.0 (Ice Cream Sandwich) 以降は、「Explore by Touch」という機能によって、指を画面上で (探るように) 滑らせながらも、音声によるフィードバックを得られるようになっています。

なお、TalkBack で音声読み上げをするためには、一般的なスクリーンリーダーと同様、音声合成エンジン (TTS : Text To Speech) を別途インストールする必要があります。Android には「Pico TTS」という音声合成エンジンがあらかじめインストールされていますが、現時点では日本語には対応していません。代わりにサードパーティ製の TTS を入れる必要がありますが、株式会社 KDDI 研究所の「N2 TTS」(無料) がポピュラーのようです。また、パソコン用の音声合成エンジンとして有名な「ドキュメントトーカ」の Android 版「ドキュメントトーカ for Android」(990円) もあり、お好みで選ぶことができます。

Android のアクセシビリティ機能のこれから

Android のアクセシビリティ機能は進化し続けており、「Ice Cream Sandwich」に続く「Jelly Bean (Android の OS バージョン4.1)」でも、細かな改善が施されています。たとえば、Explorer by Touch が進化して (単純なタッチだけでなく) ジェスチャーによる操作もできるようになったりしています (参考 : Eyes-Free Android サイトの記事「Jelly Bean: Accessibility Gestures Explained」)。

こうした標準機能のブラッシュアップは当然、継続的に進むでしょうし、Android ならではの「サードパーティによる優れた支援技術アプリの登場」も期待できそうです。これまでも、標準の支援技術である TalkBack の代替となるアプリが存在しており (たとえば「Spiel」や「Mobile Accessibility」など)、こういったサードパーティ製アプリを「競合」と見做さず、共存を許容しているところが、Android の面白いところと言えそうです。

実際の使用感としては「Android 4.1 (Jelly Bean) のアクセシビリティ機能は、iOS のそれにはまだ及ばない」というのが現状ですが (参考 : AppleVis サイトの記事「iOS or Android for the visually impaired revisited: Jelly Bean or iOS?」)、iOS とはまた違った形でどう進化するのか、Android のアクセシビリティ機能のこれからが楽しみです。