ユーザーを「人間」扱いしていますか?

すぐれたユーザーエクスペリエンス (UX) を提供するためは、ユーザーを「人間」として尊重することが欠かせません。

ほとんどの方が、そんなこと「当たり前」だとお思いでしょうが、実際は、きちんと「人間」扱いできていないことが多いのではないでしょうか。皆さん自身がひとりのユーザーとして Web サイトを利用したときのことを思い返してみると、失礼な扱いを受けたと憤慨した経験は、少なからずあると思います。

Web は上手に活用することで、運営者 (企業) とユーザー (顧客) が直接コミュニケーションできるメディアですが、運営者側から見た場合、アクセスして利用してくれるユーザーの実際の様子が見えるわけではありません (アクセス解析でユーザー行動のデータを得ることはできますが、リアルタイムなビデオチャットでもない限り、利用中のユーザーの言動や感情を知ることは難しいでしょう)。このため、リアルワールド (実店舗) であれば明らかに失礼だと言えるような応対 (接客) を、Web サイトでは平気で (知らず知らずのうちに) やってしまうことが、往々にしてあるのです。

考えるきっかけに : 動画「Google Analytics In Real Life」

Web サイト利用時のユーザーとシステムとの間のインタラクションをリアルワールドに置き換えた場合、ユーザーに対してどれだけ失礼なことをしてしまっているか...を考えるきっかけとして、面白い動画があります。Google Analytics のチームが制作した「Google Analytics In Real Life - Online Checkout」という動画です。

買い物客の男性が、スーパーマーケットで食パンを買おうとレジで会計する、というシチュエーションですが、買い物客はレジ係 (というか決済システム、ですね) から以下を求められます。

結局、買い物客の男性は嫌になってしまって、食パンひとつ買えないまま、離脱してしまいます。リアルワールドのスーパーマーケットだったら、食パンの代金を支払ってそのまま持ち帰るだけで済むところ、なんだか滑稽ですね。余談ですが、レジ係 (というか決済システム) 役の人は、Jack Hartnell さんというイギリスのコメディ俳優だそうです。オンラインシステムの融通のきかなさを、いい味で表現していますね。

大事なのは「ユーザー行動観察」と「想像力」

上記の動画をコメディとして楽しむことは結構ですが、せっかくなので「他山の石」にしたいものです。

もちろん、リアルワールドと Web とでは事情が異なるので、実店舗で不要でも Web での取引で必要なことは多々あるでしょう。たとえば個人認証は、ユーザー情報が他者に悪用されるのを防ぐ手段として必須ですし (金融などセンシティブな取引の場合はタイムアウトも要件として求められますね)、デリバリーなどのオプションが色々あってユーザー自身が選択可能であることも大事だと思います。そういったことも踏まえたうえで、「ユーザーが得ることができる (または得たいと期待する) エクスペリエンス」と「ユーザーにかかる負荷」のバランスが適切か?という感覚を持つことが、大事かなと思っています。

このバランス感覚を適切に持つためにも、ユーザーの実際の行動を観察する機会をぜひ持ちたいものです。フィールドワーク調査でもよいですし、ユーザビリティテストでもよいでしょう。いずれにしても、ユーザーの行動 (特にフラストレーションを感じる様子) を目の当たりにすることによって、ユーザーが「人間」であるという、頭では「当たり前」と理解しているつもりになっていたことが、実感 (リアルな共感) として、プロジェクトチーム内に醸成されることが期待できます。

また、サイトの設計の各段階においては、「リアルワールドでこんなことを求めたら、ユーザーはどう感じるだろうか?」という想像力をフル稼働させることも大事です。「この要求によって生じる負荷は、ユーザーが達成したいゴールに対して妥当か?」「こういう要求のしかたはユーザーに対して礼を失していないか?」「この要求は、今、本当に、必須か?」...など、ユーザーが「人間」であることを常々意識しながら絶えず自問自答する習慣を持つようにしたいものです。