進化するファインダビリティ

Web ユーザビリティの成功要因のひとつとして、「ファインダビりティ (findability)」という概念があります。古くからある概念ですが、Web 関係者の間で広く知られるようになったきっかけとしては、Peter Morville 氏が2006年に出した「アンビエント・ファインダビリティ — ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅」という本が有名です。

アンビエント・ファインダビリティ — ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅

この「ファインダビリティ」、文字通り訳すと「(情報の) 見つけやすさ」という意味になります。情報をどう整理して (構造化、組織化)、どう名前を付けるか (ラベリング)、またどう配置しどう表現 (ビジュアルデザイン) するか...という具合に、Web サイト内における情報デザインの問題と捉えられることがしばしばですが、実はそれだけでなく、サイトの外側で生じているユーザー行動 (たとえば検索エンジンの利用など) をも含めた情報探索行動全般が、ファインダビリティの対象となります。

Web を取り巻く環境の変化とファインダビリティ

ファインダビリティの向上は、Web サイト設計者の努力に負うところがもちろん大きいのですが、Web 全体を取り巻く様々な環境の変化 (技術の進歩であったり、ユーザーの行動様式の変化であったり) も、ファインダビリティに大きく影響を与えています。たとえば、近年では以下のような変化が、ファインダビリティの利便性を高めていたり、ファインダビリティのありかたを多様化させていたりします。

検索行動に対する動的な補足」を支える仕組みの裏側には、大多数のユーザーの検索行動による「集合知」の蓄積があります。また、「ユーザー側によるタクソノミーやレーティング」が可能になっていることも踏まえると、ユーザー自身もファインダビリティの向上に関わっていると言えます。

さらに、「ソーシャルメディアでの共有」も含めて考えると、(すでに「当たり前」なユーザー行動となっている検索エンジンの利用と相まって) ファインダビリティというのは Web エコシステム全体という視点で考えてみる必要がありそうです。

一方、「Web へのアクセス環境の多様化」(特にモバイルでのアクセス) は、単にユーザーの情報アクセス機会を増やしている (「いつでもどこでも」を可能にしている) だけではありません。GPS によって自分の正確な居場所や状況をシステム側に提供することができるようになり、それによって自分自身と探したい情報とのマッチング精度を上げることも可能になってきています。

それでも現状は「ユーザーがシステムに合わせている」状態

上述のように、様々な環境面での変化がファインダビリティに影響を与え、ユーザーにとって便利になってきていますが、まだまだ現時点では「ユーザーがシステムに合わせてくれている」状況と言えなくもありません。

ファインダビリティに伴って生じるユーザーのアクション (情報を見つけるための行動、さらに見つけた情報をもとに次のステップに進む行動) は、以下のふたつに大別できると思いますが :

上記のうち、「システムによって用意されたナビゲーション」は、ユーザーによってタグ付けされたリンクラベルの表示のされかたや、ソーシャルメディアなど外部サービスのユーザーインターフェース (UI) も含みます。タグの文言やソーシャルメディアでのシェア行動自体には、ユーザー側の意思が反映されるようになっているとは言え、その情報をクリックしたりタップしたりするための UI がどのような形で提供されるかによって、ユーザー行動は影響を受けます。

また、「任意のキーワードで検索する」という行動も、ユーザー側にかなりの自由度があるのは確かですが、よりよい検索結果を引き出すためにユーザーがあれこれ工夫や試行錯誤をしている (システム側がこちらの意図を理解してくれるだろうか?を意識して、単語やフレーズの組み合わせを選んでいる) というのが現状ではないでしょうか。

ある意味、この「ユーザーがシステムに合わせている」という状況は、永遠に解決しない問題かもしれません。それだけに、Web サイトを設計する側としては、「ユーザーが (無意識的に、かもしれませんが) システムに合わせてくれていること」を十分意識して、ユーザーのフラストレーションを軽減したり、ユーザーの背中を後押しするようなデザインを、常に心がける必要があると思います。

より自然なコミュニケーションによるファインダビリティの向上

「ユーザーがシステムに合わせてくれている」状況は、恐らくどんなに優れたシステムであっても完全には払拭できないかもしれません。それでも、「ユーザーがわざわざシステムに合わせることなく、より自然なコミュニケーション (意志の伝達) によって目的の情報を得る」ことができれば、そのほうが望ましいのは言うまでもないでしょう。

近年、セマンティック検索という技術が注目されています (Bing や Google で盛んに取り組みがなされているのが知られていますが、最近では Google の「Knowledge Graph」が話題になりました)。

セマンティック検索とは、ユーザーからの意志の伝達に対して、システム側がその「意味」を正しく解釈し、ユーザーが何を求めているかに即して、自然な検索結果を提供するための技術です。検索される側 (ターゲットとなるコンテンツ) にメタデータ (意味情報) を適切に付加し、検索する側に「オントロジー」を導入することによって可能になります。

* 「オントロジー」とは、自然な検索結果を提供するための推論がロジカルに (システマチックに) 実行できるように、個々の情報に対して、個体 (インスタンス) とその概念 (クラス) を定義し、さらに様々な属性や関係、条件や制約、などなどを付加して、概念体系を整備するという考えかたです。

セマンティック検索技術が進化することによって、ユーザー側からの自然なコミュニケーション (語句の羅列による検索クエリの入力というよりは対話に近い形かもしれません) に対して、精度の高いレコメンデーション (おすすめ) やサジェスチョン (提案) が可能になることが期待できます。イメージしやすい例として、音声認識ユーザーインターフェース「Siri」が挙げられると思いますが、膨大なデータによるオントロジーを背景に対話型のインタラクションを実現することで、「ユーザーがシステムに合わせない」形でのファインダビリティのありかたを示唆していると言えます。


ファインダビリティという概念自体は古くからありますが、Web そのものの発展や進歩に伴って、これからもどんどん進化を続けることでしょう。Web ユーザビリティを向上させる上で不可欠な基本要素であるファインダビリティの進歩は、今後も目が離せません。