オープンソースの無料スクリーンリーダー「NVDA」

視覚障害者がWebサイトを閲覧するときに使うスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)で無料で使えるものとして、以前「ALTAIR(アルティア) for Windows」を紹介しましたが、オープンソースの形態で開発が進められている「NVDA(Non Visual Desktop Access)」というスクリーンリーダーがあるので、今回ご紹介したいと思います。

NVDAとは?

「NVDA」は、Michael Curran氏とJames Teh氏を中心としたNVDAプロジェクトにおいて開発が進められている、無料のスクリーンリーダーです。Webサイト(ホームページ)を読み上げる場合は、現時点では、Firefox 3の使用が推奨されています(Internet Explorerにも対応すべく、開発中のようです)。

多言語化も進められており、日本語版は、ITRCUAI(高齢者と障害者のインターネット利用)分科会に設けられた「NVDA日本語化プロジェクト」のご尽力によって開発されています。NVDA日本語版のダウンロード/インストールについては、こちらの「NVDA日本語版の入手とインストール手順」をご参照ください。

インストーラー起動時のサウンドロゴ、インストール中のプログレスバーの効果音など、インストール過程において面白い仕掛けもあり、使う前に「わくわくした気持ち」にさせてくれます。アクセシビリティ支援ツールでこのようなエモーショナルな仕掛けは珍しいですが、こういった「わくわく感」の演出は、支援ツールと言えども大事なことだと思います(なんだか、ユーザーを大切にしてくれている気がするのは私だけでしょうか)。
ちなみに、NVDAは起動時/終了時にも効果音が出ます。このような、インストールや起動/終了のときに聴ける一連の音は、単に面白いだけではなく、視覚障害のユーザーにとっては適切なフィードバックにもなっているのでしょう。

NVDAの使用

NVDAの使用方法については、NVDAに付属している文書「ユーザーガイド」「キーコマンドクイックリファレンス」を参照していただいても良いですが、「まほろば」さん(障害者や高齢者を対象にパソコンに関する技術的支援をするグループ)のサイトでNVDAの使いかたが簡潔に解説されていたり、ミツエーリンクスさんの「辻ちゃん・ウエちゃんのアクセシビリティPodcast」(第25回第27回)でもわかりやすく解説されていますので、ご一読いただければと思います。

NVDAで実際に日本語を読み上げをするにあたっては、「SAPI4」や「SAPI5」といった音声合成エンジンが別途必要になります(NVDAには「eSpeak」というという音声合成エンジンが付属しているのですが、残念ながら日本語には対応していません)。SAPI4は無料で入手できますので、SAPI5をお持ちでない方は、SAPI4を入手してみると良いでしょう。
マイクロソフトのサイトの「Microsoft Agent download page for end-users」から入手できますが、具体的には「音声合成エンジン」と「SAPI4ランタイム」という2種類のファイルが必要です。
前者は、上記マイクロソフトのページ内にある「Text-to-speech engines」のところから、「Lernout & Hauspie TTS3000 TTS engine - Japanese」を選択し、その下のリンク「Download selected engine」をクリックします。
後者は、同ページの「SAPI 4.0 runtime support」のところにあるリンク「Download the Microsoft SAPI 4.0a runtime binaries」をクリックします)。

ダウンロードしたこの2つのファイル(.exe)を実行することで、SAPI4の日本語音声合成エンジンがお使いのPCにインストールされます。すると、NVDAの「出力先ダイアログ」で、SAPI4を選択することができるようになります(図示)。
NVDAの設定メニュー「出力先」
NVDAの「出力先ダイアログ」

音声の種類や読み上げ速度など、読み上げに関する様々なパラメーターは、NVDAの「音声設定ダイアログ」で設定できます。音の高さや抑揚の大きさ、音量についても併せて調整が可能です(図示)。
NVDAの設定メニュー「音声設定」
NVDAの「音声設定ダイアログ」

NVDAの面白い機能のひとつとして、読み上げ内容を(音声ではなく)ディスプレイに文字表示することができます(図示:当サイトの「アクセシビリティ指針」のページを表示した例)。
読み上げ内容のディスプレイ表示
この機能を使う場合は、上に図示した「出力先ダイアログ」で、音声合成エンジンの代わりに「display, 読み上げ内容をNVDA Display Synthウィンドウに表示」を選択します。Webサイト制作者にとっては、視覚でも読み上げ内容を確認できるので便利そうですね(音声合成エンジンを持っていない人が仮想的に読み上げ内容をチェックするのにも使えそうです)。欲を言えば、ディスプレイ表示と音声読み上げが同時にできれば(音声を聞きながら文字表示でもチェックできれば)良いかな、と思いました。

(2010年3月26日追記)

最新のNVDA開発版では、ディスプレイ表示と音声読み上げが同時にできるようになっています。詳しくは、コラム記事「進化するNVDA」をご参照ください。

なお、NVDAはFire Voxのような音声ブラウザではなく、スクリーンリーダーなので、Webページ以外のドキュメント、たとえばPDFやテキストの読み上げも可能です。PDFについては、タグ付きにしてあれば、Webページと同じように、たとえば見出しだけをピックアップして読み上げる、といった使いかたもできます。
また、設定メニューを見ると「点字設定」という項目もあるので、点字ディスプレイにも対応してくれそうです(図示)。
NVDAの設定メニュー「点字設定」


ALTAIR(アルティア) for Windows」でも述べたように、私はかねがね、視覚障害者がWebサイト(ホームページ)を閲覧するのにエクストラなコストがかかってしまうことに疑問を持っているので、オープンソースで無料のアクセシビリティ支援ツールを作ろうというこうしたムーブメントは素晴らしいと思います。現状のNVDAはまだちょっと動作が重たいかな、という印象もありますが(私の環境ではCPU負荷がすぐいっぱいになって、ハングアップすることがしばしば...)、このプロジェクトに関わる多くの人の地道な努力によって様々な問題が改善され、徐々に完成度が高まってゆくことを期待しています。