「マジックナンバー7」とメニューの数

「マジックナンバー7(±2)」という言葉を聞いたことはありますか?何かを記憶するときに、その数が7つ(プラスマイナス2、つまり5個から9個)までであれば、記憶にとどめやすいという説です。心理学者G.A.ミラー氏が1956年に発表した論文の中で使われた造語ですが、人間が一度に記憶できる要素の限界数を示す基準として、広く知られています。最近では、「7±2」ではなく「4±1」という説もあるようですが...(私自身の記憶力は、この程度かもしれません)。

Webサイト(ホームページ)を設計するうえでも、この「マジックナンバー7」という概念はよく聞かれます。たとえば、「メニュー(情報のカテゴリー)の数は7つ以内にするのが望ましい」といった具合です。でも本当に「7つ以内にまとめないとダメ」なのでしょうか?

私自身の経験(いくつかのユーザビリティテストを通じて得られた知見)でいうと、必ずしもメニューの数などは7つ以内に収まらなくても大丈夫だと思います。むしろ 下記の条件が保てていれば「マジックナンバー7」にこだわらなくてもよい、というのが私の持論です。

メニュー(情報のカテゴリー)の条件

  • 個々の情報(メニュー項目)のラベリング(表記)が具体的で誤解を与えないこと
  • 個々の情報(メニュー項目)の粒度(概念的な大きさの度合い)が揃っていること
  • 個々の情報(メニュー項目)の内容がクロスオーバー(一部でも重複したり)していないこと
  • 個々の情報(メニュー項目)が一覧できること(スクロールしなくても、すべての選択肢が一目で見渡せること)

ひとつ、例を挙げましょう。下記は、管楽器の種類(代表的なもの)を順不同でリストアップしたものです。楽器店のサイトのメニューだと想像して、見てみてください。

  1. フルート
  2. ピッコロ
  3. サクソフォン
  4. クラリネット
  5. オーボエ
  6. ファゴット
  7. トランペット
  8. コルネット
  9. フリューゲルホルン
  10. ホルン
  11. トロンボーン
  12. ユーフォニアム
  13. チューバ
  14. リコーダー

7つどころか、その倍の14種類もありますね。でも、各々の項目名は具体的で、概念の粒度も同等で、内容的にも重複していないので、ユーザーにとっては区別しやすいと言えます(実際、このようなメニューを持ったサイトでユーザビリティテストを実施したところ、ほとんど混乱は見られませんでした)。ここで「マジックナンバー7」にこだわりすぎてしまうと、たとえば下記のような分類も可能になります。

  • 木管楽器
    1. フルート
    2. ピッコロ
    3. サクソフォン
    4. クラリネット
    5. オーボエ
    6. ファゴット
    7. リコーダー
  • 金管楽器
    1. トランペット
    2. コルネット
    3. フリューゲルホルン
    4. ホルン
    5. トロンボーン
    6. ユーフォニアム
    7. チューバ

上位階層は「木管楽器」と「金管楽器」の2つだけになり、さらに各々の下位階層の項目は7つに収まりました。これを実際にWebページ化する際、以下のような階層構成にしたとしましょう。

  • 管楽器のメニューのページ(木管楽器か金管楽器かを選択できるページ)
    • 木管楽器のメニューのページ(7種類の木管楽器から1つを選択できるページ)
    • 金管楽器のメニューのページ(7種類の金管楽器から1つを選択できるページ)

一見すると、ページあたりの、一度に見なければならない情報量が減った(項目数が「マジックナンバー7」に収まった)ので、めでたしめでたし、と思われるかもしれません。しかし、「サクソフォン(サックス)が欲しい」と思ったユーザーが、上位ページ(木管楽器か金管楽器を選ぶページ)で、誤って「金管楽器」を選んでしまう(そのままサクソフォンに辿り着けない)、というリスクも考える必要があります(サクソフォンは金色/銀色なので、木管ではなく金管だと誤解されるケースが、意外と少なくなかったりします...)。情報量(項目数)を無理に減らそうとすると、このように、結果的に誤解される可能性の高いラベリングを使ってしまう危険性があることに、くれぐれも注意する必要があります。

誤解していただきたくないのですが、私自身は「マジックナンバー7」という考えかたそのものを否定しているわけではありません。ただ、気をつけなければならないのは、この「マジックナンバー7」というのは、人間が一度に記憶できる量(短期記憶の量)を示したものであるということです。Webサイト(ホームページ)の内容は、必ずしもユーザーが「瞬時に正確に記憶しないといけない」というものではないはずです。そう考えると、確かにいたずらにメニュー項目が多すぎるのは考えものですが、あまりガチガチに「7つ以内」に固執するよりは、上に掲げた「メニュー(情報のカテゴリー)の条件」を満たすことの方が重要だと思います。