ターゲットユーザー像を明確にする (ペルソナとシナリオ)
ユーザビリティとは、「特定のユーザーが、特定の利用状況の中で、特定のゴールを達成するために、ある製品を (有効性、効率性、満足度を伴って) 利用できる度合い」を言います (参照 : ウェブユーザビリティとは?)。つまり、ウェブユーザビリティを向上させるには、ターゲットユーザー像 (さらにはそのターゲットユーザーのコンテキストやゴールも) を明確にすることが不可欠です。ターゲットユーザー像を明確にすることによって、以下が期待できます。
- プロジェクトの様々な局面でデザイン判断が求められる際に、立ち返る拠り所が明確になる。デザイン判断は往々にしてトレードオフを伴うが、物事の優先度を適切に (またぶれることなく一貫性をもって) ジャッジすることができる。
- 様々なプロジェクト関係者が絡む中で、いわゆる「偉い人」の主観的な意見 (HiPPO : Highest Paid Person’s Opinion) が無批判にまかり通ってしまうことを防ぐことができる。
ターゲットユーザー像は、プロジェクト関係者の間で、共感を伴う形で、理解され共有されていることが大切です。そのためのコミュニケーションツールとしてよく使われるのが「ペルソナ」と「シナリオ」です。
ペルソナ
ペルソナ (persona) とは、架空の人物像をモデル化したもので、デザインの拠り所として利用するものです。「コンピュータは、むずかしすぎて使えない!」や「About Face 」の著者として知られるアラン・クーパー (Alan Cooper) 氏によって生み出された手法とされています。
実在の人物像 (一個人についての記述) ではなく、ターゲットとなるユーザー群を代表したモデルです。ユーザー群の持つ特性を網羅的に表現し、それでいて「あるある」な感じを含めることで、プロジェクト関係者の共感を伴うことができ、ユーザーの行動や立ち振舞を具体的に想像することができます。
本来ペルソナは、エスノグラフィックな実地調査を通じて導かれるべきで、思い込みやステレオタイプで作ってはいけません。ただし、リソースやスケジュールの面でエスノグラフィックなアプローチを実施することが難しいこともあるでしょう。そのような場合は「プラグマティックペルソナ (pragmatic persona)」というアプローチが採られます。プロジェクト関係者の知見を基に短時間にペルソナを作るわけですが、顧客接点における実体験や過去のお問い合わせ内容の記録、アクセス解析データなどといった「事実」をベースにすることで、思い込みやステレオタイプに依存しないペルソナにすることが大切です。
実際のペルソナにおいては、以下のような内容が盛り込まれます。
- 名前、顔写真 (似顔絵)、年齢 (生まれ年)。
- この人の (または所属組織の) 動機、課題、目的。
- この人の立ち位置。所属組織の概要、担当業務と経験値、意思決定の権限の大きさ、関係者、など。
- この人の (ウェブサイトが扱うテーマやウェブ利用に対する) リテラシー。どういった事前知識を持っていて、何が不安か。
- この人の (ウェブサイトに対する) 期待。何を実現できれば満足か。
- この人が所属する組織や社会に固有の情報。前提条件。
なお、ペルソナに含まれる情報は多ければよいというものではありません。人となり (嗜好やライフスタイルなど) が無駄に詳しく記述されたペルソナを見かけることがありますが、そういった要素がデザイン判断に大きく影響する案件でなければ、詳述する必要はありません。むしろきちんと押さえるべきは、ユーザーの動機や課題、目的です。
シナリオ
シナリオ (scenario) とは、ユーザー行動のあるべき流れをまとめたものです。ペルソナの人物が、どんなコンテキスト (利用文脈) でウェブサイトを利用し、目的を達成するのか、を具体的に記述します。実際にユーザーが目的を達成するためには、ウェブだけで完結することはむしろレアケースなので、リアルワールドでの行動、利害関係者との関わり、といったことも含めて、シナリオにまとめます。
シナリオのフォーマットは、特に正しい形式があるわけではなく、プロジェクト関係者がすっと「腹落ち」できる形であれば、何でも構いません。文章でまとめてもよいですし、ストーリーボード (絵コンテ) のようにビジュアルでまとめるのもよいでしょう。プロジェクト関係者の主要メンバーにマーケターが多ければ、彼らに馴染みのある「AIDMA (Attention, Interest, Desire, Memory, Action)」や「AISCEAS (Attention, Interest, Search, Comparison, Examination, Action, Share)」といった軸で書き出してもよいかもしれません。個人的には、ToBe なカスタマージャーニーマップとしてまとめることが多いです。いずれにしても大切なのは、プロジェクト関係者が共感を伴う形で理解/共有できること、実際にデザイン判断をする局面において判断のベースとして有効活用されることです。