メディアとしての Web サイトの特性を改めて考えてみる

Web サイトを作る (そして運営する) にあたって、そのサイトを通じてどんなユーザーエクスペリエンス (UX) を提供するか...を検討することは、とても大切です。行き着くところは「どんな情報 (コンテンツ) を、どんな形で提供して、利用してもらうか」なので、最終的に採るべき対策はサイトによって千差万別になります。ただ、Web サイト全般に共通する「メディア特性」というものはあるので、今回はそのあたりを簡単にまとめてみたいと思います (すでに言い古された感のある話題ですが、自分自身の「おさらい」として...)。

Web サイトを制作する人の中には、これまで他媒体での制作やデザインをされてきた方も多いと思いますが、そのときのノウハウをそのまま Web デザインに適用しても、うまくいかないことがあるかもしれません。今回の記事が、そんなときのヒントになれば嬉しいです。

ユーザーの主導権が強い

メディアとしての Web サイトの特長のひとつとして、「ユーザーの主導権が強い」ことが挙げられます。

「検索」や「リンク」によって主体的に情報を探索する

Web のユーザーは、検索 (すなわち、自ら欲する情報を、自らの言葉で、能動的に探しに行く行為) によって、直接、目的の情報にアクセスしようとします。また、リンクを辿ることによって、情報から情報へ、ユーザーの任意で、渡り歩こうとします。

個々人のゴールやコンテキストに応じて様々な「渡り歩きかた」ができるので、あるコンテンツを「特定の導線の中の特定のステップで見られるもの」と限定的に想定するのは難しい (多くの場合、適切でない) と言えます。検索エンジンやソーシャルメディアなど外部から直接来訪するケースも多いので、そういった流れの中でも「今の状況」をスムーズに伝え、さらに「次にどうしたらよいか」をわかりやすく後押しする必要があります。

また、Web ではユーザーが主体的に情報探索する傾向が強いことに起因して、ユーザー自身が得たいと欲する以外の情報は「余計なノイズ」として嫌われやすい (フラストレーションを感じやすい) 傾向があるように思います。

情報は発信者の立場に関係なく対等に散在する (どれを受け入れるかはユーザー側に委ねられる)

Web は他媒体と異なり、ブログや SNS などによってユーザー自身が情報発信者になることが簡単にできます。サービス提供企業やマスコミから発信された情報だけが鵜呑みにされるのではでなく、様々な人が様々な意見を発していて、しかもそれらが対等な形で散在している、というのが Web の面白いところ (そして難しいところ) と言えるでしょう。

信頼を寄せる人や共感を持った人とソーシャルメディアで (自らの意思で) つながって、その人がレコメンドする情報にアクセスし、また別の人にシェアする...という動きもよく見られます。対等な形で散在する情報のうちどれを受け入れるかはユーザー側に委ねられており、一企業が恣意的に情報をコントロールすることは不可能です。

デザインが可変である

メディアとしての Web サイトの、もうひとつの特長として、「デザインが可変である」ことも挙げられます。

固定したレイアウトデザインができない

Web サイト上の個々のコンテンツ (Web ページ) は、印刷媒体 (本や新聞やポスターなど) のような固定したレイアウトデザインができません。Web デザインにおいては、ユーザー側の閲覧環境 (デバイス、OS、ブラウザなどの組み合わせ) によって、画面サイズ (表示可能な面積)、レイアウト、フォント、画像や文字の大きさ、などが異なってくることを、制約条件として受け容れる必要があります。

この制約条件は今後も消えることはありません。昨今のスマートフォンやタブレットの急速な普及はわかりやすい例ですが、ユーザーの閲覧環境は多様化する一方であり、そして将来どんなデバイスが出てくるかは予測不可能です。

逆に言うと、どんな閲覧環境でもそれぞれに適応した形で、ひととおりの情報を伝えることが可能なのが、他のメディアには無い Web サイトの特長と言えます (Web デザインにおいてはむしろ、これを「利点」として捉えるべきでしょう)。基本は「意味的な論理構造」をベースに情報を組み立て、そのうえで閲覧環境に応じたデザイン (見た目やインタラクション) を加味してゆく...という流れが妥当だろうと考えます。

操作方法のバリエーションも多様化

ユーザーの閲覧環境の多様化によって、操作方法のバリエーションも増えてきています。従来からある「マウス」や「キーボード」に加え、「タッチ (ジェスチャ)」や「音声入力」といった操作方法が普及してきていますが、先の記事「ユーザーの意思をコンピュータに伝える方法いろいろ」で触れたような「身振り手振り」「目線の動き」なども今後は実用化されるかもしれません。

そう考えると、ある特定の操作方法を前提にしたインタラクション、たとえばマウス操作を前提にした「ホバー (hover)」などは、採用すべきかどうか慎重に検討する必要があると思います。どんな操作方法でも共通に挙動するインタラクションによって情報を辿ることができること (たとえば「クリック」「タップ」「フォーカス+エンター」はいずれも、リンクやボタンを押すという、共通した挙動をします) を担保することのほうが大事だと考えます。

ユーザー自身による UI のカスタマイズもある

また、ユーザー自身の状況に応じて、ユーザーインターフェース (UI) をカスタマイズできることも、Web サイトの特長です。たとえば、以下のような例があります。

さらには、メインのコンテンツだけを切りだして (ヘッダー、フッター、ナビゲーションメニュー、広告などを排除して) 見る人もいます。たとえば、RSS リーダーや Safari の「リーダー」機能、さらには「Instapaper」や「Readability」といったサービスもあります。

こういったカスタマイズを阻害しないようにすること、たとえカスタマイズされても情報が伝わるようにすること、が大事だと思います。


より深く考察すれば、上記以外にもいろいろあると思いますが、今の時点で改めて考えてみて、思い浮かんだことを自分なりに整理してみました。ご参考になれば嬉しいですし、自分自身、ことあるごとに立ち返ってみたいと思います。