パターンランゲージとユーザー中心設計 (UCD)

ここ数年、パターンランゲージに興味を持っています。

パターンランゲージとは「デザインする対象の構造に潜む関係性の諸パターンとそれらの生成プロセスを、共通の形式に則って自然言語で記述し、体系化したもの」です (この定義は、iTunes U で公開されている慶応大学 SFC の講義「パタンランゲージ2010」から引用させていただきました)。

もともとは、Christopher Alexander (クリストファー・アレグザンダー) が提唱した建築/都市計画にかかわる理論ですが、その後、様々な分野で応用的に派生しています。Web デザインの分野では、以下の書籍が有名です。

デザイニング・インターフェース ― パターンによる実践的インタラクションデザイン デザイニング・ウェブインターフェース ― リッチなウェブアプリケーションを実現する原則とパターン 検索と発見のためのデザイン ― エクスペリエンスの未来へ

また、ソシオメディアの「UI デザインパターン」も参考になりますし、変わった例としては、悪い UI デザインのパターンを共有する Dark Patterns というサイトもあります。

パターンランゲージの対象

パターンランゲージは、最終的なデザイン成果物、つまり (物質的な) モノであったりソフトウェアだったり、を対象にして「あるべき姿」をデザインパターンとしてまとめたもの (あるいはダメな例をアンチパターンとしてまとめたもの)、と理解されることが多いと思います。

Web の場合、上記に挙げた書籍のように、すでに多くのデザインパターン/アンチパターンが既出 (おなじみ) かもしれませんが、新しい UI (最近だとタッチインターフェースなど) が出てくれば、それに配慮した新しいインタラクションのパターンランゲージが作られることでしょう。また、アクセシビリティ分野でのパターンランゲージは絶対的に少ないので、「公共性の高い情報を発信する機関が簡単に理解できて、具体的に実践/実装できるようなパターンランゲージを作ってみる」というのも面白いかもしれません。

ところで、こういった「モノ」「ソフトウェア」を対象とするだけでなく、近年のパターンランゲージでは、「人間の行為」を対象としたものも出始めているようです。

ユーザー中心設計 (UCD) プロセスへの応用

先日、UXD Initiative の研究会でパターンランゲージをテーマにしたセッションがあり (私自身はその場にはいませんでしたが、Ustream で視聴していました)、その中で「パターンランゲージ 3.0」という概念が紹介されていました。パターンランゲージの「1.0」が物質的なもの (建築など) を対象とし、「2.0」が非物質的なもの (ソフトウェアや組織など) を対象としているのに対し、パターンランゲージ「3.0」は、人間行為をデザインの対象とし、異なる経験を持つ多様な人たちをつなぐのに使われるというものです。

  • パターンランゲージが支援するデザインの対象 : 人間の行為
  • パターンランゲージのその使いかた : 異なる経験を持つ多様な人たちをつなぐ
  • パターンランゲージの作りかた : 多様なメンバーによる協働的なパターンの掘り起こし/記述/改善

これを Web サイトの設計に当てはめると、「ユーザーの行動を対象にした、Web サイトの制作/運営に関わる様々なステークホルダーをつなぐツール」としてパターンランゲージを位置づけたらどうだろう、という考えが頭に浮かびました。「ユーザーの行動を対象に」と書きましたが、ユーザー中心設計 (UCD : User Centered Design) のプロセスに、パターンランゲージを応用できないだろうか?と思ったのです。

もともとパターンランゲージには、デザイン上の問題解決を効率化するツール (無駄な「車輪の再発明」を防ぐためのもの) という側面があると同時に、新たな解決の発見や気づきを促すツールという存在意義もあります。その意味でも、ユーザー中心設計プロセスにパターンランゲージを応用するという考えかたは、あながち的外れではないかもしれません。

ユーザー行動シナリオ (ストーリーテリング) の一形態として

パターンランゲージのユーザー中心設計プロセスへの応用を具体的に考えると、ユーザー行動シナリオ (あるいはストーリーテリング : storytelling) の一形態として、パターンランゲージを用いるというアイデアはいかがでしょうか。

というのも、パターンランゲージの作成過程、特にその上流工程を見ると、ユーザー中心設計のそれと似ている気がしたからです。リアル世界での事象観察や当事者参加のブレストを通じてデータを得て、KJ 法を駆使して普遍性や本質を見出し、最終的な成果物に落とし込む...という一連の流れは、ユーザー中心設計におけるペルソナ/シナリオ作りに似ているな、と思ったのです。

また、実際にパターンランゲージを書くにあたっては、(この記事の冒頭でも触れた iTunes U で公開されている慶応大学 SFC の講義「パタンランゲージ2010」によると) 下記を押さえること肝要とされています。

  • 「文脈 (context)」「問題 (problem)」「解決 (solution)」を明示する。
  • 各々のパターンの間で「文脈」「問題」「解決」の近似があれば、より普遍的なパターンとしてまとめる。
  • 「問題」や「文脈」に関わる "force" (社会的、文化的、その他による圧力/制約) や「解決」の具体例としての "action" も書く。

上記のうち特に「文脈 (context)」「問題 (problem)」「解決 (solution)」の3つは、まさにユーザー行動シナリオ (ストーリーテリング) をまとめるうえで押さえておきたい要素と合致します。

なお、ユーザー行動シナリオ (ストーリーテリング) の書きかたには、特に決まったフォーマットの正解はありません。何をどの程度、どのように書くかは、プロジェクトの規模やメンバー、かけられる工数などによって変わってきます。

結局のところ、ペルソナ、シナリオ、ストーリーテリングといったユーザー中心設計で用いられるドキュメンテーションは、プロジェクトが円滑に進むためのコミュニケーションツールです。そして、そのツールを利用する人の中には、「ユーザー中心設計」や「ユーザーエクスペリエンス」といった概念になじみの無い人もいます (むしろそういう人のほうが多いことでしょう)。そういった多様なメンバーの全員が、理解と実感を伴ってペルソナやシナリオに書かれている内容を共有するためには、ドキュメンテーションの「とっつきやすさ」も重要なファクターと言えます。その意味で、パターンランゲージという形態を採り入れるのは、面白いかもしれませんし、機会があれば試してみたいと思います。もし既に実践されている方がいらっしゃれば、感想などお聞かせいただけると嬉しいです。