スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2010年12月実施の WebAIM 調査より

Web アクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」による、スクリーンリーダー (音声読み上げ支援技術) の利用に関する調査結果が、2011年2月28日に発表されました。英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Screen Reader User Survey #3 Results」ページで詳しい調査分析ご覧いただくことができます。

前年3月に開催されたアクセシビリティに関する国際会議「CSUN 2010」にて、WebAIM はスクリーンリーダー利用に関する同様の調査を行なっており、その調査結果を発表していますが (当サイトでも記事「スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2009年1月および10月実施の WebAIM 調査より」で採り上げさせていただきました)、今回ここでご紹介する調査は、そのフォローアップという位置づけになります 。

もう少し細かく言うと、2009年1月に第1回、2009年10月に第2回の調査が実施され、そこで得られた差分による傾向分析を基に「CSUN 2010」での発表が行なわれました。そして今回ご紹介する第3回目の調査は、2010年12月に実施されたものです。

今回 WebAIM から発表された調査分析を見ると、前回調査で見えた傾向が、より一層進んでいるな、という印象です。以下は、WebAIM のレポート内容を二次利用する形ではありますが、私自身が興味深く感じた事項を中心に、スクリーンリーダー利用に関するトレンドについてまとめたいと思います。

調査方法の概略

調査は Web アンケート形式で行なわれ、有効回答数は、1,245人でした (うち、英語での回答は1,049人、スペイン語での回答は101人、フランス語での回答は91人、ポルトガル語での回答は4人)。Web アンケートフォームの多言語化が前回に比べて進んだこともあってか、回答数は前回調査よりも増えています。

調査参加者のプロフィールですが、回答者のうち障害者 (生活の必要上スクリーンリーダーを使用している人) の占める割合は、91パーセントとなっています。

スクリーンリーダーの習熟度については、上級者が52.6パーセント、中級者が41.2パーセントで、初心者が6.1パーセント、という内訳です (つまり中級者以上が95パーセント近くを占めています)。

インターネットの習熟度については、上級者が62.5パーセント、中級者が35.7パーセント、初心者が1.7パーセント、という内訳です (つまり中級者以上が98パーセント強を占めています)。

上記の、スクリーンリーダーおよびインターネットの習熟度のパーセンテージは、前回の調査とほぼ同じ結果になっています。つまり今回の調査においても、視覚障害者のうち、それなりにインターネットを使いこなしている人が、中心的回答者像と言えます。初心者が極端に少ないですが、いずれ初心者は中級者になることを考えると、調査結果にバイアスがかかっているとは考えなくてもよいと思います。

以下、今回の調査で確認できた主な傾向について、ピックアップしてみましょう。

無料またはローコストのスクリーンリーダーのユーザーが増加している

メインのスクリーンリーダー (調査票では「Primary Screen Reader」と表現されています) を調べたところ、JAWS が圧倒的に多く、59.2パーセントとなっています。ただし前回の調査結果 (66.4パーセント) からは、わずかに減少しています。その一方、無料のスクリーンリーダーである NVDA が、前回調査の2009年10月と比較して3倍近い伸びを示しています (2.9パーセントから8.6パーセントに増加)。

また、普段よく使うスクリーンリーダー (調査票では「Screen Reader Commonly Used」と表現されています) は、これも JAWS が圧倒的に多いですが (70パーセント)、前回調査の75.2パーセントに比べると、少し減少しています。その一方で、VoiceOver (前回調査では14.6パーセント → 今回調査では20.2パーセント) と NVDA (前回調査では25.6パーセント → 今回調査では34.8パーセント) が増えています。

ちなみに、回答者の47パーセントは、複数のスクリーンリーダーを使っているそうです。メインのスクリーンリーダーとしては高機能な有料ツールを PC に入れておいて、時と場合によって、無料の (あるいはローコストな) スクリーンリーダーを使用している、という様子が目に浮かびます。

「無料またはローコストのスクリーンリーダーは、有料スクリーンリーダーの代用になるか?」という質問に対しては、60.4パーセントの人が「はい」と回答しています。前回「はい」と回答した人は47.8パーセントなので、着実に増加傾向にあります。特に、NVDA ユーザーの98パーセントVoiceOver ユーザーの95パーセントは、この問いに対して「はい」と答えており、実際にこれらの無料スクリーンリーダーを使用しているユーザーの満足度はかなり高いと言えます。

JavaScript はほとんどのユーザーが有効にしている

メインのスクリーンリーダーを使用する際に一緒に使っている Web ブラウザは何かについて質問したところ、Internet Explorer が65.3パーセントともっとも多く (IE 6 から IE 9 までの合算ですが)、Firefox が23.5パーセント、Safari が9.6パーセントとなっています。Web 利用者全体におけるブラウザシェアと比べると、視覚障害者の間では比較的 IE が多く使われていると言えそうです。

ただし、前回調査では IE のシェアは70.9パーセントだったので、それに比べると、IE のシェアは下降気味です。ちなみに Firefox は前回調査では18.8パーセント、Safari は8.3パーセントだったので、これらのブラウザは、少しずつシェアを上げていることになります。

そんな中、JavaScript の使用状況を質問したところ、なんと98.4パーセントの人が JavaScript を有効にしている、という回答結果が得られました。前回調査では 75パーセント近くの人が JavaScript を有効にしているという結果で、それでも「意外に多くの人が JavaScript を有効にしているんだな」という印象でしたが、今回の調査結果を見ると、ほとんどすべての視覚障害者ユーザーが JavaScript を有効にしていると言っても過言ではないでしょう。

モバイル機器で音声読み上げをする人が増加している

前回の調査結果では、モバイル機器で音声読み上げをする人が急増していることも、特筆すべきトレンドでした (第1回の調査では12パーセントだったのが、第2回の調査では50パーセントと、4倍もの増加率を示していました)。そして今回 (第3回目の調査) は、66.7パーセントの人がモバイル環境で音声読み上げをしていると回答しています。モバイル機器におけるスクリーンリーダーの利用は、着実に増えていると言えるでしょう。

ちなみに、モバイル環境において使用されているスクリーンリーダーの種類とシェアは、以下のとおりです。現時点では iPhone や Android 端末よりも Nokia の携帯電話ユーザーが多いということもあり、下記のランキングは、そうしたハードウェアのシェアの影響を少なからず受けているものと思われます。

  1. Nuance Talks (Nokia端末を中心に使える) : 30.0パーセント
  2. VoiceOver for iPhone : 27.1パーセント
  3. Mobile Speak (Symbian OS や Windows Mobileで使える) : 16.3パーセント
  4. TalkBack for Android : 2.5パーセント
  5. Orator/Oratio for BlackBerry : 0.6パーセント

セマンティックな要素を用いたナビゲーション (情報探索) が増加している

見出し要素を使ったナビゲーション

「長いページの中で情報を探す場合、どの機能をまず使いますか?」という設問に対して、以下のような回答が得られています。

  1. ページ内の見出し要素を辿って情報を探す : 57.2パーセント
  2. ページ内を検索する機能を使う : 21.5パーセント
  3. ページ内のリンク箇所を辿って情報を探す : 12.8パーセント
  4. まずはページを全部、通して読む : 8.5パーセント

ページ内に配置された見出し要素 (<h1>、<h2>、<h3> など) を辿って情報を探す人の割合は、2009年10月の50.8パーセントに比べて、今回は57.2パーセントまで増えています (その反面、それ以外の、つまり上記箇条書きの2から4の手法を使う割合は、前回調査時に比べて減少しています)。この「見出しナビゲーション」は、今では大半のスクリーンリーダーに用意されている機能ですが、多くのユーザーに認知され、使われつつあると言えます。

セマンティックな文書構造に基づいて、適切な見出しを提供することは、アクセシビリティの面で (そしてもちろん、ユーザビリティの面でも)、とても重要であることが、改めてわかる結果です。

WAI-ARIA のランドマークの認知

W3C の WAI-ARIA で定義されているランドマーク (どこがナビゲーションで、どこがコンテンツ本文で...という情報を、ブロック要素の role="xxx" 属性で示すことによって、WAI-ARIA に対応したブラウザや支援技術が文書構造を適切に把握して、ユーザーに伝達できる仕組み) について、その認知度を含めて調べたところ、以下の回答が得られました。

  1. WAI-ARIA ランドマークの存在自体を知らなかった : 30.9パーセント
  2. WAI-ARIA ランドマークを情報探索には使っていない : 25.9パーセント
  3. 時々、WAI-ARIA ランドマークを情報探索に使う : 25.0パーセント
  4. WAI-ARIA ランドマークが存在していれば必ず情報探索に使う : 14.5パーセント
  5. 使用しているスクリーンリーダーが WAI-ARIA ランドマークをサポートしていない : 3.6パーセント

WAI-ARIA ランドマーク の認知度は、徐々に上がっていると言えます。2009年10月の調査では、42パーセントの人が「WAI-ARIA ランドマークの存在自体を知らなかった」と回答してますが、今回の調査では、そのように回答した人は30.9パーセントにまで減っています。

ただし、実際にナビゲーション (情報探索) の手段として活用されているかについては、まだ十分とは言えない状況のようです。

スキップナビゲーションの使用

2009年1月の調査に比べて、スキップナビゲーション (グローバルナビゲーションなどを飛び越して、ページ本文のアンカーに行けるリンク) を使用する人の割合は、わずかに減少しているという結果が出ています。私見ですが、見出し要素や WAI-ARIA ランドマークによって情報探索 (ナビゲーション) する人が増加していることに起因するのではないかと思います。

アクセスキーの使用

2009年1月の調査に比べて、アクセスキーをいつも/しばしば使用する人の割合は減少しています (38パーセント → 27.5パーセント)。私見ですが、アクセスキーに頼らなくてもキーボードでナビゲートできることは重要だと思いますので、この傾向は、至極まっとうな方向に進んでいるな、という気がしています。というのもアクセスキーの定義づけは、ある Web サイトまたはページにおける特有のルールになるため、ユーザーの認知負荷/記憶負荷を高めると同時に、ブラウザや支援技術の基本機能としてリザーブされているキーの組み合わせとバッティングした場合、ユーザーの意図通りに動かなくなる恐れがあるので、なるべく使用すべきではないと思っているからです。


いかがでしょうか。この記事の冒頭で、「今回 WebAIM から発表された調査分析を見ると、前回調査で見えた傾向が、より一層進んでいるな、という印象」と述べました。特筆すべき傾向を改めてサマリーすると、以下のことが言えると思います。

  • JAWS (スクリーンリーダーの最高峰) は、今もメインのスクリーンリーダーとして君臨している。ただし、そのシェアは落ちていて、無料のスクリーンリーダーである NVDA や VoiceOver のシェアが明らかに増えている。
  • 無料/ローコストのスクリーンリーダーに対する認識や評価が高まっている。
  • ほとんど全員の視覚障害者ユーザーが、JavaScript を有効にして Web を閲覧している。
  • モバイル機器でスクリーンリーダーを使用する人が著しく増えている。
  • セマンティックなマークアップがユーザーに役立つ形で受け入れられつつある。

今後も、この調査は続くと思われますので、引き続き、次回以降もウォッチしてゆきたいと思います。米国を中心とする海外の調査なので、日本とは事情が異なるのでは?という意見もあるかもしれませんが、支援技術のローコスト化 (フリー化)、JavaScript 有効の「当たり前」化、モバイルの増加、セマンティックなマークアップの重要性の増加、といった傾向は、少なからず日本でのアクセシビリティ向上施策にも影響を与えるのではないかと私は思っています (そうであって欲しい、という願望も込めて...)。

なお今回の調査では、調査票 (Web アンケート) の多言語化が随分と進みました。次回の調査ではぜひ、日本語のアンケートフォームもあると、日本からの参加者も気軽に回答できて、WebAIM の調査のモノサシで、日本のユーザー傾向を見ることができるのではないかと思います。調査票の日本語ローカライズのお手伝いができる機会がもしあれば、ぜひやってみたいな、と思っているところです。