「だれもが使えるウェブコンクール」表彰式&シンポジウム

先のコラム記事で触れました「だれもが使えるウェブコンクール」で、当サイトは特別賞を受賞しまして、2010年3月26日に開催された表彰式とシンポジウムに参加させていただきました。単なる表彰式ではなく、Webアクセシビリティについて色々と学べるシンポジウムとして、とても面白く勉強になりましたので、私的メモの形ですがここに記録しておきたいと思います。

なお、より客観的なレポートとしては、「その仕事、蠍は留守です」さんや「世界中の1%の人々へ」さんの記事などがおすすめかと思います。

以下、印象に残った部分を中心に(私見も織り交ぜつつ)まとめました。

基調講演「生活を支えるウェブサイト」

お話をしていただいた岩城陸奥さんは、トヨタ自動車や資生堂でデザインのお仕事を経験され、ウェブ広告研究会発足時に初代幹事を務められた方です。

具体的な諸事例(動画の字幕、電車の座席、など)を引き合いに出して、アクセシブルなデザインについての考察を展開されていました。「Webはライフライン」「技術よりも人の研究を」といった言葉が印象的でした。世の中にアクセシブルでない製品やサービスが溢れている要因として、効率主義を批判されていましたが、私自身は、これはあくまでも「作り手側の効率追求に偏ることがダメ」というふうに解釈しました。「ユーザーが自らの目的を達成するにあたっての効率」を高める努力は、ユーザーエクスペリエンスデザインの観点で、逆に譲れないと思うからです。

トークセッション「市民にとって使いやすいウェブとは」

瀧澤正和さん(日本IBM東京基礎研究所)をモデレーターに、園順一さん(中途視覚障害者)、松田基章さん(View-Net神奈川などで視覚障害者を支援)、そして菅野さん(主婦で視覚障害者のネットショッピングを手伝った経験あり)によるパネルトークが展開されました。

園さん

「Googleのクローラーは視覚障害者である」という言葉は印象的でした。アクセシビリティ対応は(手法的にはWeb標準とも密接に絡むので)、単にアクセシビリティの面だけでなく、SEO、ひいてはWebエコシステムの観点でのユーザーエクスペリエンス向上にもメリットがあることをおっしゃりたいのかな、と解釈しました。

また、PDFやメーラーにも言及されていました。PDFファイルをブラウザウィンドウ内で開くと、スクリーンリーダーでは読み上げられないという事例紹介があったほか、メーラーのデフォルト(初期状態)はHTMLメールではなくテキスト形式のほうがありがたい、というお話もありました。

松田さん

NTTドコモの「らくらくホン」が、盲学校の生徒さんから寄せられたフィードバックを受けて改善/進化していることを一例に、サイトの制作者/運営者側に「ユーザーの声を伝えること」の大事さを訴えられていたのが興味深かったです。

また、今後のWebに望むこととして、JIS X8341-3に則っているからOKではなく、「愛(ユーザーへの配慮)が欲しい」とおっしゃられていたのも印象的でした。

菅野さん

生活者(中高年の主婦)視点で感じられたことを率直にお話しされていて、興味深く聴かせていただきました。「目的を達成するために探している肝心な情報に、なかなか辿り着けないサイトが多い。(偶然かもしれないが)Flashや派手なバナーなど、ビジュアルに凝ろうとしているサイトに限って、そういう傾向が見られる気がする」という主旨の発言をされていて、なるほどそうかもしれないな、と思いました。サイトのターゲットユーザー像とユーザー行動をきちんと検討したうえで、適切な情報設計(IA)を施すことが大切であることを、改めて感じました。

だれもが使えるウェブコンクール表彰式

表彰式に先立って審査総評のお話があり、どういった基準で審査がなされたかについてのお話がありました。個人的に気になったのは「配色のコントラストに関してはほとんどのサイトが不適切(IBMの「aDesigner」というツールで検証)」という指摘ですが、当サイトではアクセシビリティ指針の「配色」で述べているように、HTMLテキストだけでなく画像内キャプションも含めて配色には気をつけているつもりでした(今一度、確認しようと思います)。

特別鼎談「Adobeの取り組むアクセシビリティ FlashやPDFを利用したアクセシブルなコンテンツ制作」

西村真理子さん(アドビシステムズ)、森田雄さん(だれもが使えるウェブコンクール実行委員会 統括ディレクター)、伊藤紀之さん(だれもが使えるウェブコンクール実行委員会 審査委員)、の3名による鼎談(ていだん)です。

西村さん

アドビ製品のアクセシビリティ対応についての概略説明がありました。Photoshop CS4から、CUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)が技術協力した色覚シミュレーション機能が搭載されているのが特に興味深かったです。

森田さん

WordファイルからアクセシブルなPDFファイルを作成するデモがありました。実務レベルで役立つノウハウ(Wordで文字の割り付けをする際には文字間にスペースを入れることはせずに「均等割り付け」機能を使いましょうとか、Acrobatを使ってPDFに変換する際には「アクセシビリティを有効にする」チェックを外さないように注意しましょう、など)が軽妙なトークで語られて、とても楽しいデモンストレーションでした。

伊藤さん

Flashアプリケーションのアクセシビリティ向上についての解説がありました(Flashの「アクセシビリティパネル」で適切なタブインデックス設定をすることで、キーボード操作が可能になる、など)。ちなみに「アクセシビリティパネル」では、キーボードショートカットも設定できるのですが、ブラウザ側で装備されているショートカットと競合する可能性があるので推奨できない、といった議論もありました(HTMLファイルの中でアクセスキーを設定する場合も、同様の注意が必要ですね)。

ちなみに伊藤さんは「NORI」というペンネームで、gihyo.jp(技術評論者)のサイトで「Flashのアクセシビリティについて考える」という連載をお持ちです。より詳しく、Flashのアクセシビリティについて勉強したいという方は要注目ですね。

特別講演「中央省庁におけるホームページのバリアフリーに関する調査について」

総務省行政評価局の江澤岸生さんより、中央省庁の各Webサイトにおけるアクセシビリティ対応状況調査について、お話がありました。

全省庁(1府11省および21外局)の34サイトを対象に、職員2名(!)という体制で、目視、キーボードによる操作、音声読み上げソフトによる読み上げ、チェックツールによる点検、を実施しているとのことでした。2009年8月から調査を開始して、現在は各ページの調査を終えたところ(調査結果を整理中)というステータスで、最終的な調査結果の公表は2010年4月以降になるそうです。

省庁のサイトにはPDF文書が多いにもかかわらず、今回の調査対象はHTMLページに限定されている(PDFは含まない)そうで、調査設計として疑問の声も寄せられましたが、HTMLだけでも対象ページ数が1500にも及ぶそうで、それを2人だけで調査する、という気の遠くなりそうなご努力には、本当に頭が下がります。せっかくの貴重な調査ですので「調べて終わり」にならないことを願うばかりです。具体的な改善につながって欲しいと思いますし、公共性の高いサイトでの取り組み事例として、苦労話も含めてノウハウをアウトプットいただければ、多くのサイトにとって参考になるのではと期待しています。

その他

今回の表彰式&シンポジウムでは、この他にも休憩時間や懇親会の場で、多くの方とお話しすることができました。

毎日.jp「ユニバーサロン」の岩下恭士編集長とは、共通の知人を通じてご紹介いただき、当日、初めてお会いすることができました。ユニバーサロンは以前より愛読させていただいているのですが、個人的な要望として、ユニバーサロンの記事をRSS配信していただけませんか?と不躾にもお願いしてみました。毎日.jp全体の運営方針に関わる話なのでどうなるかわかりませんが、楽しみにしたいと思います。

先のコラム記事(できることを少しずつ「継続は力なり」の精神で)で触れさせていただいた濱田英雄さん(「濱田ウェブ・アクセシビリティ研究所」所長)にもお会いすることができました。濱田さんは現行のWebアクセシビリティJIS(JIS-X8341:2004)の策定にも携われていて、アクセシビリティを熟知されている方ですが、それでも「アクセシビリティに完璧はない。今後も勉強を続けたい。」とおっしゃられていて、感銘を受けました。また、苦労話やアクセシビリティ向上について気をつけられていることなどについて、豊富なご経験をもとに色々とアドバイスをいただきました。

それから、Twitterでフォローさせていただき、実際お会いできたらいいなと思っていた武者圭さん(サウンドスケープデザイナー)やNPO法人ハーモニー・アイ理事長の馬場寿実さん(今回のコンクールの実行委員長)ともお話することができ、嬉しかったです。馬場さんは「アクセシビリティへの取り組みを明るいものにしたい」「だれコンの受賞者がステータスを持てるように継続して発展させたい」とおっしゃられて、とても共感しました。

その他、様々な分野で障害者支援に活躍されている方々とお話ができたり、コラムを愛読させていただいているユニバーサルワークスさんと思いがけずお会いできたり、今回のコンクールで入賞した青森県庁サイトのウェブマスターさんが「CSS Nite in AOMORI」の運営にも携わっていることを知ったり(なんとエネルギッシュな!)などなど、とても楽しかったです。

なお、上記にまとめた当日の様子は、動画共有サービス「USTREAM」でも視聴することができます(前半後半)。