DITA

インフォメーションアーキテクチャ(IA)の分野で、DITAという概念を時々目にすることがあります。耳慣れない言葉かと思いますが、ひとことで言うと「情報を構造化(パーツ化)して目的に応じて再構成し出力する」という考えかたです。情報デザインに関心のある方にとっては興味をそそられるテーマだと思いますので、簡単にご紹介したいと思います。

DITAとは、Darwin Information Typing Architecture の略です。情報(Information)を類型化(Typing)し、目的に合った形でコンテンツを形成し、発行/配布するための基本設計概念(Architecture)です。「Darwin」という名を冠していますが、これは進化論を唱えたダーウィンの名にちなんだものです。情報が様々な環境や要件に適応して変化すて出力される様子を表しているものと言えます。

ベースとなる技術としては、XMLを使用しています。具体的な仕様は「OASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards:構造化情報標準促進協会)」という団体が策定しています。また、日本においては、2009年に「DITAコンソーシアムジャパン」が発足し、普及促進が始まっています。

DITAは新しい概念であり、具体的な活用事例があるわけではないので、全容を理解するのは難しいですが(私自身、完全に理解できているわけではありませんが...)、かいつまんで説明すると、おおよそ以下のようになります。

基本要素:トピックとマップ

DITAによる情報構造化を特長づけているのは、「トピック」と「マップ」という基本要素です。

「トピック」とは、それ自体で自己完結するミニマムな情報素材です。ドキュメント(コンテンツ)を構成する「部品」みたいなものと考えることができます。タイトルだったり、メタデータ記述の序文だったり、本文だったり、と様々なタイプのものがあります。一方、「マップ」とは、ある制作目的のために、コンテンツに必要なトピックへの参照を集めて定義したものです。

このように、トピックとマップを整備することで、あらかじめトピックを作って蓄積しておき、用意されたトピックの中から必要なものをマップによってかき集めることで、ドキュメント(コンテンツ)を生成します。
DITAの概念図

DITAの展望

情報を「ある目的」に基づいて蓄積し再利用する、というのがDITAの基本的な考えかたですが、各基本要素(上述のトピックとマップ)を組織の情報提供目的に合わせてきちんと作ることによって、利用組織の目的に合わせた情報アーキテクチャを構築することが可能になる、というのがDITAの目指すところになります。

現時点ではDITAは、製品の取扱説明情報など、限られた分野を対象に検討が進められている様子です。たとえば取扱説明書(およびその情報を流用して展開できること)を例に考えると、以下のように、様々な形態で情報を発行/配布することが考えられます。

上記の各々の形態を「マップ」として定義し、「トピック」の中から、「マップ」にふさわしいトピックをピックアップすれば、各々の形態のドキュメントをゼロベースで作るという苦労から解放され、ネタ(トピック)を有効に使い回せるのでは?と期待されています。「ワンソース マルチユース」の発展形とも言えそうですね。

今後は、CMSにもこうした考えかたが持ち込まれて、Webサイトの種類によっては、「ワンソース マルチユース」的な情報提供が実現するかもしれません。

情報の再構成/再利用は「機械的」にできるのか?

このような楽観的な期待の一方で、そんなに単純な話ではない、という議論もあります(ラプラス取説研究所さんの「コンテクスト変換という幻想(DITAを巡る話題)」という記事がとても示唆に富んでいて参考になります)。

最終的に生成されエンドユーザーに届く情報は、当然、多種多様なユーザー行動のコンテキスト(文脈)に配慮したものでなければならないわけですが:

  • コンテキスト(上記の取扱説明情報の例で挙げた各形態のユースケース、と言い換えてもよいでしょう)が変わるということは、最終的に生成される情報の内容や構造に影響を与える。
  • 情報の内容、表現、構造は相互を制約するものである。たとえば、コンテキスト(ユースケース)に配慮してドキュメントの構造を変えると、それに合わせて内容表現も変えてゆかなければならない場合がある。

...といったあたりは、忘れてはならない視点かなと思います。つまり、ありもののトピックを機械的に集めてはい出来上がり、というわけにはいかない、ということです。

DITAは、できるだけ効率的に、コンテキストの違いに対応する形でのコンテンツ生成を目指すものですが、こうして考えると実は大きなチャレンジと言えそうです。今後の展開を楽しみにウォッチしてゆきたいと思います。