アイトラッキング調査の功罪

「功罪」と刺激的なタイトルを付けてみましたが、決してアイトラッキング調査を否定するものではありません。ただ、アイトラッキングに慣れすぎてしまうと、ユーザビリティテストの本質を見失う危険性があるのでは?と、最近アイトラッキング調査を実施する機会が多かった私自身が感じてしまったので、自戒を込めて、書き残しておきたいと思います。

まず、アイトラッキング調査の「良い点」と「悪い点」を、簡単にリストアップしてみましょう。

良い点

  • ユーザビリティテストの結果を「見える化」(視覚的にわかりやすい形で表現)できるようになった。
  • 科学的/客観的なデータを、ユーザビリティテストで得ることができるようになった。
  • クライアント(ユーザビリティテストの依頼元)に対する説得力を飛躍的に増すことができるようになった。
  • ユーザビリティテストの場で、モデレーター(司会者)とテスター(テスト協力者)が「振り返り」の会話をしやすくなった(具体的なテスターの行動について「このとき何を考えていたか?」という記憶を辿りやすい)。

悪い点

  • 「アイトラッキング調査」が即ち「ユーザビリティテスト」であるという誤解を招く可能性がある。
  • アイトラッキングシステムに客観的なデータ(テスターの目線の動き)が記録されることをあてにし過ぎてしまい、テスト現場におけるモデレーターのテスター観察がおろそかになる恐れがある(本来、モデレーターや記録担当者は、テスターの行動、発話、表情を、ライブできちんと観察しなければなりません)。

本来、ユーザビリティテストは、仮説検証ベースの行動観察です。アイトラッキングを使おうが使わまいが、この原則は変わりません。この仮説検証ベースの行動観察という原則に則してさえいれば、ユーザビリティテストの手段としては、ペーパープロトタイピングを含め、様々な手法があります。必ずしも、(マジックミラーがあるような)きちんとしたテストルームを用意したり、アイトラッキングシステムがなくても、ユーザビリティテストは十分に可能なのです。むしろ、気軽な簡易テストを、サイト開発フェーズに応じて何度か繰り返すほうが、大がかりなテストを一度だけやるよりも、良い結果につながります。

こうした原則があるにもかかわらず、(ユーザビリティテストというよりは)「アイトラッキング調査をやって欲しい」と依頼されるクライアントさんが時々いらして、気になります。要は、何となく「見える化」できることに魅力を感じすぎて、適切なテスト設計(検証すべきユーザー行動仮説の検討)を省いてでも、とにかくアイトラッキングシステムで目線の動きを見てみたい、というものです。

アイトラッキングは便利なツールですが、あくまでも「手段」にすぎません。上記に記したユーザビリティテストの原則を正しく理解したうえで、(アイトラッキングを使う場合には)上手に付き合いたいものです。