iPhoneのインタラクションデザインに想うこと

2008年の7月に発売され、今なお話題のiPhone。発売当初からマスコミでも大きく取り上げられ、あたかも「UI(ユーザーインターフェース)の理想型」のよう見えてしまうほどの扱いを受けています。果たしてiPhoneが「理想的なUI」かについては、個々人によって意見がわかれるところでしょう。私自身、一個人としては諸手を挙げて「iPhone最高!」とは思わなかったりします。その一方で、ユーザビリティ屋としては、個人的主観だけをもって「食わず嫌い」になってはいけないな、と改めて思うのです(自戒の念を込めて)。

私がiPhoneを「理想的なUI」と思わない理由は、その特長でもあるタッチパネルにあります。アクセシビリティ(ユニバーサルデザイン)の観点で見ると、タッチパネルによる操作は、視覚障害者にとって非常に困難だからです。さらにiPhoneの操作では、指先を巧みに滑らせることで様々な制御を可能にしています(オブジェクトを自由に移動したり拡大したりなど)。このような操作は、いわゆる健常者にとっては直感的で楽しい反面、上肢障害の人や高齢者にとっては操作が困難であるという課題を孕んでいます。

もし仮に、世の中のデジタル端末のユーザーインターフェースがみんなiPhoneのようになってしまったら、きっと困る人が続出することでしょう。その意味で、iPhoneは「理想的なUI」ではないのです。かたや従来型のiPodは、ユニバーサルデザインとなり得る可能性が高いかもしれません。iPhoneほど操作の自由度はないにせよ、タッチダイヤルだけですべての操作(選択と実行)が可能なので、たとえばフォーカスが当たっているテキストを読み上げる仕組みがあれば、視覚障害の人でも使いこなせそうです(2008年9月に発売されたiPod nanoには、音声ガイド機能が付いていて、英語表記であればメニュー名や曲名、アーティスト名を読み上げてくれるようです)。一方で従来型のiPodがあって、もう一方でiPhoneがあって。ユーザー個々人の特質に合わせてチョイスできる選択肢があるからこそ、iPhoneは評価されるべきなのだと思います。

ところで、単体では「理想的なUI」たり得ないとは思うものの、ユーザビリティ専門家の端くれとしてiPhoneを見ると、そのユーザーインターフェースの革新性には非常に興味深いものがあります。

一般的なWeb閲覧のインターフェースでは、マウスやトラックパッドといったポインティングデバイスを使って画面上のマウスポインタを操り、オブジェクトをクリックしたりドラッグしたりします。つまり、Webページを直接いじるのではなく、ポイングィングデバイスを経由して、間接的にWebページに触れているわけです。できるだけ操作が直感的になるように、状況に応じてマウスポインタの形状が変わったり(矢印型のポインタ、テキスト編集ができるI型ポインタ、クリックができる「人差し指を突き出した手の形」ポインタ、PDFドキュメントを掴んで上下左右に動かせる手形ポインタ、など)、スクロールバーのような補助機能が用意されていたりしますが、あくまでも「間接的に触れている」ことには変わりません。ところがiPhoneの場合、ポインティングデバイスではなく、ユーザー自らの指を使って直接、Webページに触れることができます。実際にiPhoneを操作してみるとわかりますが、実に巧妙なインタラクションによって、指先の微妙な動きがフィードバックと直結しているように感じさせてくれます。ポインティングデバイスによる操作は、GUI(Graphical User Interface)誕生以来の「常識」ですが、その「常識」を破ったという意味では、よくよく考えると、iPhoneはものすごい革新なのではないか?と思ったのです。

このような革新性が、今後、Webのユーザーインターフェース設計にどう影響してくるか。今の常識の範囲内では思いつかないようなユーザーエクスペリエンスが可能になるかもしれません。その意味で、今現在の常識で「良い」「悪い」を論じるのではなく、新しいUIの姿にも積極的に適応し、想像力をはたらかせる姿勢が、ユーザビリティ専門家には求められるのではないか、と改めて感じたのでした。