ユーザーエクスペリエンスとは?

ウェブユーザビリティと非常に関わりの深い概念として、ユーザーエクスペリエンス (User Experience : UX) があります。「ユーザー体験」と訳されることが多いですが、ウェブサイトなどの利用を通じてユーザーがある体験 (経験) をしたとき、その体験 (経験) がユーザーにとって有意義だったかどうかが重要な価値であるという意味が込められています。

ISO 9241-210 で、「ユーザーエクスペリエンス」は以下の通り定義されています。

A person's perceptions and responses that result from the use or anticipated use of a product, system or service
製品、システム、サービスの利用 (または利用の予期) によってもたらされる、個人の知覚と反応

ここで言う「個人の知覚と反応 (a person's perception and respnses)」とは、つまりユーザー自身の中で形作られる主観ですが、たとえば、以下のようなものが挙げられるでしょう。

ところで、「ウェブユーザビリティとは?」でご紹介した ISO 9241-11 の定義では、ユーザビリティという概念の中に「満足度」が含まれていますし、ニールセンが定義するユーザビリティの構成要素にも「主観的満足度」が含まれています。この「(主観的な) 満足度」こそがユーザーエクスペリエンスであると考えると、ユーザビリティの改善はユーザーエクスペリエンスの向上に大きく影響するもの、と言うことができそうです。ちなみに、上述の ISO 9241-210 (ユーザーエクスペリエンスの定義) にも、注釈として以下の記述があります。

Usability, when interpreted from the perspective of the user's personal goals, can include the kind of perceptual and emotional aspects typically associated with user experience. Usability criteria can be used to assess aspects of user experience. (ユーザーの個人的目標という観点から考えた場合、ユーザーエクスペリエンスに付随する知覚的、感情的な側面は、概してユーザビリティに含むことができる。ユーザビリティの評価基準はユーザーエクスペリエンスの諸側面を評価するのに用いることができる。)

もちろん、ユーザーエクスペリエンス向上をもたらす要素はユーザビリティだけではなく、感性的な側面もあります。ユーザーエクスペリエンスという言葉を初めて唱えたのは「誰のためのデザイン? ― 認知科学者のデザイン原論」の著者として有名な認知心理学者のドナルド・ノーマン (Donald A. Norman) 氏ですが、「誰のための~?」でユーザビリティやユーザー中心設計の大切さを力説していた氏が、その後「エモーショナル・デザイン ― 微笑を誘うモノたちのために」という本を出したことは、今思えば必然だったと言えそうです。

余談ですが、2003年のヒューマンインターフェース学会でノーマン氏が来日講演すると伺って拝聴したのですが、「誰のための~?」のような内容を期待していた私にとってはとても衝撃的だったのをよく覚えています。

さらに昨今では、「デザイン思考 (design thinking)」や「サービスデザイン (service design)」のアプローチを応用した「ユーザーエクスペリエンスデザイン (UXD)」という言葉も、よく聞かれるようになりました。これはユーザーを熟知したうえで、ユーザーの経験価値を最大限にすべく、プロダクトやサービスの企画、マーケティング活動、顧客タッチポイントのありかた (プロモーション、販売、アフターサービス、など)、さらには事業戦略をデザインしようというもので、ユーザーエクスペリエンスの向上はもはや企業が部門横断的に取り組まなければならない「総力戦」の様相を呈しています。

ここまで来ると個人的には、ユーザーエクスペリエンスは (顧客が購買行動やサービス利用を積み重ねることによって主観的に構築する) ブランドと似ているかも、という気がしています。

このように時と共にスコープが広がってきた感のあるユーザーエクスペリエンスですが、ユーザビリティの検討や議論を本質から外さないようにするためにも、その先にあるユーザーエクスペリエンスをしっかりと意識したいものです。